掲載:2014年3月 / クリティカル・ケア部
去る2月28日(金)京都にて開催された「第41回日本集中治療医学会」にて 「脳神経モニタリングとしての新しい瞳孔指標について(New Pupil Index as a Neuromonitoring)」と題してイブニングセミナーが行われました。
座長に国際医療福祉大学熱海病院神経内科教授/脳卒中・神経センター/リハビリテーション部副センター長の永山正雄先生、演者に国内から大阪府三島救命救急センター所長代理小畑仁司先生、海外からコロンビア大学神経集中治療部Sachin Agarwal先生をお迎えし、臨床的所見からわかり易い内容で講演をして頂きました。
「ペンライトから定量的瞳孔計へ」(小畑仁司先生)発表概要
意識障害患者における瞳孔所見は脳ヘルニア、脳幹虚血の指標としてきわめて重要であるということ、予後の指標、手術適応の判断などを検討するファクターとなり得るという内容でした。瞳孔反応曲線を示し、実際にどのような曲線を描くのかも説明して頂きました。
ペンライトによる測定は非常に曖昧であり、その要因として、光量と瞳孔までの距離と角度、検者の視力、部屋の明るさ、等が不定であることを挙げて、誰が計っても定量的に行えることが重要であるとの説明を頂きました。
NPiTM-100 Pupillometerは一定光量の近赤外光を一定の距離/角度から患者瞳孔に照射し、瞳孔変化をキャプチャーして解析することにより、瞳孔最大径/最小径、瞳孔収縮の度合い、収縮開始までの潜時、瞳孔収縮/拡大速度を計測し、これらパラメーターをアルゴリズム処理してNPiという指標を算出します。
NPi値は0-5まで表示され、≧3が正常で5に近いほど反射が迅速である。得られた数値は客観性、再現性にすぐれ、瞳孔異常が頭蓋内圧上昇に先行すること、心停止患者の予後予測に有用であることが報告されている文献なども紹介して頂きました。
瞳孔は脳ヘルニアの部位により大きな影響を受けることや、脳虚血により瞳孔反応に影響がでることから曖昧な対光反射判断は非常に懸念されると述べられ、具体的な症例を2例示して頂きました。
72歳男性橋出血、対光反射ありでNPiも安定した値が得られていましたが、視見で行うと視検者によって判定にゆらぎがあったという内容でした。
更に78歳女性、ワーファリン服用中に急性硬膜下血腫術後に再出血・GCS3でNPiも左0.5、右1.7と非常に重篤度が高い例のご説明を頂きました。縮瞳率は2%・8%ととても低いので、より視見ではより困難であるということでした。
瞳孔径は平均で左右差は0.52mm。対光反射に関しては40.9%の差異が出たということです。対光反射の判断は3段階であり、その区別も非常に不明確であるために誤診の可能性があることを過去の海外文献から引用され、39%にも誤診が及ぶデータも示して頂きました。
蘇生前、蘇生後で瞳孔の動きを定量的に見直していくことで有用なデータが得られる文献も示して頂きました。更に自己心拍再開の早さが大きく瞳孔反応と関係がある可能性がある一例を海外文献から示して頂きました。
結語として誰が計っても同じ尺度で定量的に数値化出来ることの重要性、神経集中治療において瞳孔観察の意義は大きいと論じられました。
「Incorporating the Pupillometer into Bedside Practice」(Sachin Agarwal先生)発表概要
まず初めにアメリカの現状を踏まえ、コロンビア大学の神経集中ケア(NICU)の現状、神経学的予後や経過が重要である背景を述べられました。小畑先生と重複する内容もありましたが、アメリカではより沢山の人種が混ざっており、より困難な瞳孔判断があると述べておられました。
指標は3つあり、トリアージ(重篤度の指標)、予後判定、手術を行うか否かというものでした。
また蘇生、心停止後、低体温療法においての瞳孔反応に関して有用であることを論じられました。蘇生においては5分以内に心肺が再開する、あるいは対光反射が良好の場合、転帰良好。一方、心肺再開に5分以上かかる、あるいは対光反射が徐々に悪化するか大きく患者の様態の方向性を左右すると述べておられました。
特に興味深かったのは具体的な数値を掲げていたことです。日本にはまだ具体的な指標はありません。計測は1時間おきに2床に対して1台の瞳孔計を装備しているとのことです。両目の差異が1mmを超えている、10%未満の縮瞳率、速度が0.6mm毎秒未満、NPiが3未満。NPiが3未満の場合、20mmHg以上に既になっているか、15~30分以内に20mmHgに頭蓋内圧(ICP)が亢進する可能性を示唆しているので次の処置の検討に入るというものでした。
死亡率は瞳孔の反応性と直接的かつ正比例の関係にあるということです。
以下の表を示し対光反射に問題がないほど、死亡率が低いというものでした。
瞳孔のステータス | 患者数 | 死亡率(%) |
両側で反応 | 51 | 23.5 |
一側が固定かつ散大 | 29 | 31.0 |
両側で固定、だが非散大 | 40 | 42.5 |
両側で固定かつ散大 | 69 | 79.7 |
更に BTF(Brain Trauma Foundation)ガイドラインから引用して
“12ヶ月時点での望ましくない転帰は瞳孔反応性と逆相関している”
“瞳孔散大は脳幹虚血のインジケータである可能性がある。脳血流及び脳灌流圧が散大した瞳孔を持つ重篤な頭部外傷患者において急速に回復されるならば、予後は良好である可能性がある”と説明し、瞳孔状態を経時的に観察することが重要と述べていました。
両先生から注目すべき海外文献はやはりICP(頭蓋内圧)亢進に関するものでした。Dr.Chenの文献を用いて、NPiの経時変化から約15.9時間前に発見できたという内容でありました。
質疑応答では時間切れになるほど、多くの質問を受けました。
内容はNPiに関するものやアメリカではどんな患者にも使用しているのか、どのくらいインストールされているかなどでした。
アメリカの140以上の大学病院にすでに導入されており、日本でもNPiが重篤度を示すインデックスとして汎用されていくことを強く願っております。
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Dr.Chenの文献はこちらから入手できます。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21748035
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