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経肺圧(食道内圧)の役割

経肺圧ランチョンセミナー

2014年7月19日(土)~20(日)秋田にて開催されました「第36回呼吸療法医学会学術総会」にて「Role of Esophageal Pressure Monitoring on Mechanical Ventilation Setting of ARDS patients」(ARDS患者の人工呼吸器設定における食道内圧モニタリングの役割)と題してランチョンセミナーが開催されました。

 

座長に東京女子医科大学麻酔学教室 准教授 小谷透 先生、演者にイタリアよりDirector of Emergency Anesthesia and

Intensive Care Department Azienda Ospedaliera della Provincia di Lecco. のGiuseppe Foti先生をお迎えし、食道内圧を用いた呼吸管理の設定に関する近年の知見も含めたご講演をして頂きました。

 

Giuseppe Foti先生は20年以上前よりARDSの分野で活発に活動されており、ECMOや人工呼吸器の設定など非常に幅広い分野で研究をしておられます。また1982年から1999年までNIH(National Institutes of Health)でPSVなど自発呼吸と人工呼吸器の設定について専門に研究されている先生です。

 

最初に例として下図スライドを挙げられ、Severe ARDSの肥満患者、Moderate ARDS患者、肺移植後小児患者と3種類の患者さんのグラフィックを比較されました。一般的に、Severe ARDS肥満患者さんの気道内圧は約50cmH2Oであるため非常に高く危険であると判断されます。一方、肺移植後小児患者さんの気道内圧は非常に低い圧であるため安全と判断されます。しかし、食道内圧を測定した場合これらの患者さんの気道内圧が示す臨床的意味は全く異なってきます。これらの患者さんのプラトー圧から食道内圧を引いた値である経肺圧を測定した場合、肥満患者さんの経肺圧のPEEPは十分安全域で管理されています。むしろ小児の胸郭コンプライアンスは非常に高く、気道にかかっているほぼ全ての圧と同等の圧力が肺にかかってしまっています。そのため、小児患者さんは他の患者さんよりも逆に危険であることが判断できる。この様に食道内圧のモニタリングが呼吸管理を行う上で非常に重要な要素の一つであると述べられました。

Total ventilatory support scenario

 

なぜARDS患者の食道内圧を測定すべきか?
食道内圧から胸郭コンプライアンスと経肺圧の情報を得ることができ、人工呼吸器の適切な設定に役立てることができます。しかしARDSの肺は病的ですが、胸郭には問題はありません。にもかかわらず、なぜ胸郭コンプライアンスを測定する必要があるのでしょうか?1995年Foti先生自身が行われた研究1より 、麻酔下で非ARDS患者とARDS患者の食道内圧測定値からARDS患者の胸郭エラスタンスは健常肺と比較して明らかに高値を示したとの結果を示され、ARDS患者における食道内圧測定の必要性を強調されました。

chest wall can be stiff in ards


食道内圧を用いた人工呼吸器の設定について2つのアプローチについて
①NIH(National Institutes of Health:米国国立衛生研究所)アプローチ

2008年Talmorら2は、経肺圧のPEEPを用い呼気終末時の食道内圧の絶対値から導き出した経肺圧群(Esophageal pressure Guided Group)とARDSnetのPEEP・FiO2の表を用いたControl群(Control Group)の比較を行いました。Control群では、経肺圧のPEEPは0cmH2O以下でした。経肺圧群(Esophageal pressure Guided Group)では0cmH2O以上で管理することができましたが、プラトー圧は30cmH2Oを超えており、従来の呼吸管理のルールを逸脱した値となりました。また経肺圧群(Esophageal pressure Guided Group)ではP/F比で改善を認め、Respiratory systemコンプライアンスにおいても改善、また死亡率においても改善の傾向が認められました。

mechanical ventilation guided by esophageal in acute lung injury mechanical ventilation guided by esophageal pressure in acute lung injury

 

②イタリアンアプローチ

イタリアでは少し異なったアプローチがとられています。Foti先生らは食道内圧測定の問題点として、食道内圧は患者の体重、体格、縦隔の重さ、心臓の重さ、疾患などに依存して変化するため絶対値を完全に信用することが出来ないという点です。そこで、気道内圧のΔ値と食道内圧のΔ値から気道内圧における胸郭を広げるために必要な圧のパーセンテージを導き出すと共に、経肺圧の管理目標を26cmH2O以下とされているとのことです。

physiological effect of an open... physiological effects of an open lung ventilatory...

 

特に興味深かったのは、Foti先生のご施設では食道内圧測定を用いた呼吸管理の設定を行う場合、①自発呼吸がない場合の完全調節換気(Total Ventilatory Support)と ②自発呼吸がある場合の部分換気(Partial Ventilatory Support)という2つのケースを分けて評価されているということです。

pes monitoring

 

①自発呼吸がない場合の完全調節換気(Total Ventilatory Support)
Total Ventilatory Supportでは、過剰な鎮静、過剰なサポート圧、呼吸筋の弛緩などが問題となりますが、特に近年の報告では人工呼吸管理における呼吸筋の委縮が問題となっています。人工呼吸のために鎮静を行った場合、それが短期間であったとしても呼吸筋の萎縮を引き起こす危険性があるという2008年のNew England Journal of Medicine3の報告を紹介されました。

rapid disuse atrophy of diaphragm fibers in mechanically...

 

②自発呼吸がある場合の部分換気(Partial Ventilatory Support)
本来、自発呼吸を生かすことで下側肺のリクルートや、呼吸筋の萎縮を防ぐなどといった大きなメリットがありますが、自発呼吸がある患者さんにPS圧を5cmH2O設定した場合、食道内圧の振れ幅(swing)は7cmH2Oとなっています。(下図左)一方、同じ患者さんに15cmH2OのPS圧を設定した場合(下図右)、食道内圧は陽圧に傾いており肺は受動的に広げられているため患者さんの自発呼吸を十分に生かしきれずに呼吸をしている状態(Over assistance)であり、その危険性について説明されました。

isit partial ventilatory support

 

またUnder assistanceも同様に問題となる点を指摘され、強い自発呼吸によって肺障害を引き起こしてしまう危険性についても言及されました。もし患者さんの自発呼吸が過剰であった場合、特に若年者においては強い自発呼吸があるため経肺圧は高値となり肺障害の危険性があることを述べておられました。

 

質疑応答では活発な議論が繰り広げられ、呼吸管理における食道内圧測定への関心の高さを再認識いたしました。現在アメリカでは食道内圧を人工呼吸器設定の一つの指標とするRCTが進行しており、日本においても食道内圧測定の重要性が今後より一層高まることを強く願っています。

 

詳細は近日中に完成するDVDをご覧ください。

 

1.

Alteration of Lung and Chest Wall Mechanics in Patients with Acute Lung Injury: Effects of Posituve End-expiratory Pressure

PAOLO PELOSI, MAURIZIO CEREDA, GIUSEPPE FOTI, MATTEO GIACOMINI, and ANTONIO PESENTI

AM J RESPIR CRIT CARE MED 1995;152:531-7

2.

Mechanical Ventilation Guided by Esophageal Pressure in Acute Lung Injury

Daniel Talmor,M.D.,M.P.H., Todd Sarge, >.D., Atul Malhotra, M.D., Carl R. O'Donnell, Sc.D., M.P.H., Ray Ritz, R.R.T., Alan Lisbon, M.D., Victor Novack, M.D., Ph.D., and Stephen H. Loring, M.D.

N Engl j Med 2008;359:2095-104

3.

Rapid Disuse Atrophy of Diaphragm Fibers in Mechanically Ventilated Humans

Sanford Levine, M.D., Taitan Ngyyen, B.S.E., Nyali Taylor, M.D., Michael E.Friscia, M.D., Murat T. Budak, M.D., Ph.D., Pamela Rothenberg, B.A., Jianliang Zhu,M.D., Rajeev Sachdeva, M.D., Seema Sonnad, Ph.D., Larry R.Kaiser, M.D., Neal A.Rubinstein, M.D., Scott K.Powers, Ph.D., Ed.D., and Joseph B Shrager, M.D.

N Engl j Med 2008;358:1327-1335

 

 

文責 人工呼吸器部 村上

2014年8月

 

 

 

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