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臨床能力を有する薬剤師育成の取り組み

前回、「チーム医療~ベッドサイドに向かう薬剤師さんの場合~」では、チーム医療での薬剤師さんの役割拡大について取り上げさせていただきました。

今回は、チーム医療の中で活躍できる薬剤師さんを育成する教育現場で起きている変化をご紹介し、今後のチーム医療を考える上でご参考になればと考え、九州保健福祉大学薬学部 徳永仁准教授にお話しをお伺いしました。

 

九州保健福祉大学薬学部薬学科九州保健福祉大学薬学部薬学科 (6年制)

高度化する医療現場での即戦力となるよう医療薬学における実務を重視し、
「患者を中心とした医療」をサポートできる薬剤師の養成を目的とし、
2006-2008年度文部科学省が推進する質の高い医療人を養成する教育プログラム“医療人GP”に採択されました。GPとはgood practiceの略です。
薬剤師国家試験について、2007年より3年連続で総合合格率90%以上は九州保健福祉大学のみとなっています。  

 

九州保健福祉大学薬学部薬学科九州保健福祉大学薬学部 臨床薬学第二講座 徳永仁 准教授

チーム医療に参画できる薬剤師を育成するため「バイタルサインの確認・フィジカルアセスメント」ができる教育を指導し、臨床薬学系実習(ベッドサイド実習)、病院薬学演習や発展的客観的臨床能力試験(アドバンストOSCE)を担当されています。また、学外からの薬剤師の研修の要望にも応えておられます。薬学部に赴任するまでは、熊本大学医学部附属病院の薬剤師として薬剤師業務全般に携わっておられました。 

現在の研究テーマ

医薬品の適正使用を目指した最適治療法と薬学的診断法に関する研究。

バイタルサインの確認・様々な医療処置が体験できる薬学シミュレーション教育法の構築。

 

病院での薬剤師さんに刺激される

現在、医療機関では薬剤師さんの役割が拡大しつつあることを、前回、WEBマガジンで取り上げさせていただきました

九州保健福祉大学薬学部様では、薬剤師さんの役割の拡大についてどのように考えられていらっしゃいますでしょうか?

 

厚生労働省医政局は2010年4月に「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」という通知を発出し、薬剤師を積極的に活用することが可能な業務として9つの項目をあげています。これを受けて日本病院薬剤師会は本通知に対する解釈と具体例を2010年10月にまとめ、公表しています。業務の具体例としては、薬物療法を受けている患者に対してフィジカルアセスメント、回診・カンファレンスへの参加を通じて患者の状態を把握することなどがあげられました。

チーム医療における薬剤師の役割として専門的な知識は当たり前であり、それらに加えフィジカルアセスメントを行う臨床的スキルも求められるようになってきています。 

現在は「薬剤師によるバイタルサインの測定が薬効の評価や副作用の確認に重要である」という認識になっていると思います。つまり、薬剤師が患者に触れてはならないという過去の誤認識は少なくなりつつあります。

 

本薬学部では「薬物の効果・副作用の確認を目的としたバイタルサインの読める薬剤師教育」を臨床薬学系実習の一つであるベッドサイド実習において4年生を対象に展開しています。厚生労働省医政局通知や日本病院薬剤師会からの解釈と具体例が取り上げられる前から、臨床薬学第二講座教授である髙村徳人先生とともに、ブランド構築を意識し本薬学部にしかない特徴ある教育を行おうと取り組んでいました。薬剤師の役割拡大はその延長上にあり、下地は出来ていました。数年前までは、私どもがバイタルサインやフィジカルアセスメントに関して学会発表した際に「薬剤師が患者に触れる必要などない」「薬剤師がバイタルサインを確認するなど論外」「薬剤師は薬に関することだけすればいい」など様々な意見をいただきました。 

徳永先生しかし現在では、いくつかの大学病院の薬剤師の先生方が院内のバイタルサイン・フィジカルアセスメントの研修会を修了し、病棟でラウンドしているお話を聞くようになりました。救命救急の分野では、チームに薬剤師が入り、アドレナリン、アミオダロンなどの薬剤を取り揃える、投与のタイミングを図る、などが行われています。ある調剤薬局では、在宅医療の場面でパルスオキシメーター、血圧計、聴診器を持って、フィジカルアセスメントが行われています。 

バイタルサイン・フィジカルアセスメントに関しては、薬学部での教育よりも実際の医療現場でのニーズが高く、現場の薬剤師の先生方が先行しているように感じますし、大学側の私たちも刺激を受けます。来年4月には6年制教育を終えた新しい薬剤師を輩出する現在、いよいよ本格的に薬剤師の職能拡大に向けて時代が動いている感がいたします。 

 

2006年に大きく変わった薬学教育

改正学校教育法および改正薬剤師法により、2006年から薬学部では6年制課程の設置がスタートしました。そして、薬剤師になるには6年制課程を卒業しなければ国家試験の受験資格が与えられなくなりました。また、この6年制の目的は「臨床に係る実践的な能力を培うこと」とされています。九州保健福祉大学薬学様では、この薬学教育改革を受け、どのような薬学教育を目指していらっしゃいますでしょうか?

 

本学科の教育目標は、国家試験合格ではなく、その先の有能な薬剤師養成としています。 薬剤師の養成にあたり、薬剤師に期待される職能を考えますと、病院と調剤薬局では違いがあるように思います。病院の薬剤師に求められる職能とは、医師・看護師そして患者から求められる臨床薬剤師としての能力であり、また調剤薬局の薬剤師に求める職能とは、臨床薬剤師としての能力に加えて薬剤師として「予防医学・薬学」をサポートできる能力と考えています。

そこで、本学薬学部では全ての学生に有能な薬剤師となるべく実践的教育を行うものの、より特化した「臨床薬学」または「予防薬学」の専門家育成を目指したアドバンスト教育をおこなうため、1学科2コース制をとっています。これは5年次から別れて専門的な知識・スキルを学ぶようになっています。 

 

医療人GPに選定された特徴ある教育内容 

九州保健福祉大学薬学部様は、2006年、文部科学省が進める“質の高い医療人を養成する教育プログラム医療人GP”に申請し、薬学教育部門「臨床能力向上に向けた薬剤師の養成」に選定されています。“医療人GP”に申請した動機と選定後の取り組みについてお聞かせ下さい。

 

これまでの薬学教育は、主に基礎薬学の知識の取得に力を入れており、医療薬学や臨床薬学教育は主なものではなかったように思います。ですから、医療現場での薬物治療のための実践的な薬学教育は重要視されていませんでした。その結果、チーム医療において医師をはじめ医療スタッフとの薬物治療の方針について議論できる薬剤師が極めて少ないという状況を生んだと思います。

計器類 大袈裟かもしれませんが、これまでの臨床薬学系実習を改革することで臨床能力に長けた実践型の薬剤師を養成しようという目標を掲げ、そのためには、チーム医療を推進するための共通言語であるバイタルサインの読める薬剤師を育成する教育システムを構築する必要があるとの結論に至りました。 医療人GPは、文部科学省支援事業の大学教育改革プログラムに該当し、申請しました。

医療人GPの申請では、病院薬剤師の業務のなかで特にチーム医療に求められる臨床能力を持つ薬剤師を養成すべく、ベッドサイド実習の内容の充実に焦点をあてることにしました。 この申請は、当時の薬学部長である山本隆一現副学長と髙村教授を中心に作成されましたが、私も「データ・資料等」担当として書類作成にお手伝いさせていただきました。

 

バイタルサインが読める薬剤師の能力開発

“バイタルサインが読める薬剤師の育成“の内容についてお聞かせください。

  

ベッドサイド実習においては、基本的な薬剤師業務である注射剤調剤の実践的トレーニング、薬学系万能型実習人形を使用した様々な投与ルートの確認、直腸投与体験、皮下・筋肉注射体験、模擬血液の採血体験が可能となっています。また、血圧計、パルスオキシメーター、体温計や携帯型心電図計などのバイタルサイン関連機器、救命救急処置法(心肺蘇生法・薬物投与など)について指導しています。非侵襲的なバイタルサイン関連機器の使用法の解説を行うことで、そこから得られたデータを薬学的にどのように生かすことができるかということも学生に考えさせています。さらに、様々なシミュレータを用いてバイタルサインの確認のトレーニングを行っています。九州保健福祉大学のベッドサイド実習室では日本の薬学部で初めて患者シミュレータを導入し、現在、全国の薬学部および医学部も含めても、ベッドサイド実習施設のシミュレーションラボとしてはトップレベルとなっています。

 

設置機器ベッドサイド実習では高機能患者シミュレータである貴社の“スタン”を使用して、薬物誤投与と病態変化が体験できるシミュレーションも行っています。このシミュレータは、ホメオスタシスを保つように心拍数、血圧および呼吸などが自動的に変化することが特徴的です。豊富な臨床に基づいた薬物動態学データおよび薬力学データがプログラミングされており、薬物投与や換気などの処置にコンピュータが反応を作りだす高機能ロボットです。バイタルサインの変化や病態による状況が人体同様のリアルさで再現可能であり、処置に対する成否も臨床に則した状態で確認が可能です。よって、バランスが崩れると症状が悪化し、場合によっては死にいたります。学生は以上のような内容を指先とモニター画面上に表示された警告やアラームにより視覚・聴覚から容態変化を理解することができるようになります。 

授業ベッドサイド実習の学生の反応ですが、グループの一人ひとりが協力し合って正しい処置を行った結果、“スタン”がベースラインへ戻った瞬間には歓喜する学生も多数いました。おそらく学生は“スタン”を患者と認識し、患者を死から生へ導いた達成感を得ているのではないでしょうか。“スタン”は、今までの薬学部にはなかった重要な存在になると思っています。薬学部において高速液体クロマトグラフィーを有していない大学が無いように、高機能患者シミュレータも薬学部には欠かせない機器、いいえ「スタッフ」であると思っています。

ベッドサイド実習の内容は、さらにアドバンスト教育として5年生を対象に病院薬学演習において引き継がれます。この病院薬学演習においては、独自に作成した課題である水銀血圧計を使用した「血圧測定技術」とシミュレータを使用した「フィジカルアセスメント能力」をアドバンストOSCEトライアルとして実施しています。「フィジカルアセスメント能力」は〔下痢〕〔脳圧亢進状態〕および〔慢性閉塞性肺疾患〕の3つからなります。4年次に行われるOSCEと同様に、各課題の細目評価と概略評価を行いました。その結果、両課題の昨年度の細目評価平均達成率は95.6~98.5%と非常に高く、また概略評価も高い評価を得ることができました。私たちは、今回行ったアドバンストOSCEトライアルにおいて、学生は真剣に血圧測定技術やフィジカルアセスメント能力について学習したと考えています。 

高機能患者シミュレータを使用した薬学教材のプログラムを開発されたとのことですが、教材の内容についてご紹介いただけますでしょうか。

 

当初は高機能シミュレータがどのようなものか全くわかりませんでしたので、実際に高機能患者シミュレータを使用している静岡県にある掛川市立総合病院の研修会の見学の機会をいただきました。 私は医療現場を離れてしばらくの時間が経っておりましたので、その研修会は非常に有意義な体験となりました。そこでの研修内容を参考に、貴社の協力を得ながらシミュレーションプログラムを作成させていただきました。

これまでのシミュレータは、もともと医学・看護学の分野で使用されてきましたので、どちらかといえばシミュレータにプログラムされている内容も医師・看護師向けのものが多かったように思います。バイタルサインの確認やフィジカルアセスメントを学ぶには最適なシミュレータではありますが、薬剤師の観点からの薬物誤投与や薬効の確認の体験には不十分なところもありました。そこで、“スタン”を使用して薬学用のシミュレーションプログラムの作成を行いました。 作成したシミュレーションプログラムは、薬物誤投与に関してはカリウム製剤の急速静注やインスリン過剰投与時の症状再現であり、また病態変化に関しては喘息症状、アナフィラキシー症状、高血糖症状および出血症状です。

プログラム

また、実際にシミュレーションプログラムに問題がないかの検証も本学薬学部教授の佐藤圭創医師にも協力いただきました。沢山の方のご尽力により、シミュレーションプログラムを作成することができました。

なお、このプログラムを使用した実習の模様は、動画教材にし、ホームページで公開しております(シナリオのダウンロードも可能)。  インターネットの検索サイトにおいて「薬学シミュレーション」で検索できるようになっております。 この動画公開については2011年7月8日の薬事日報にも掲載されました。

 

薬学教育の成果

九州保健福祉大学様の校舎に垂れ幕がかかっており、薬剤師国家試験の新卒合格率が日本一と記載されていました。これまでの薬学教育の成果として素晴らしい成績ですね。

 

第92回国家試験合格率薬剤師の国家試験に関しまして、第92回国家試験で合格率97.50%を達成し全国第1位となった1期生に続き、3期生が再び日本一でした(既卒者を含む総合合格率は94.78%で全国第3位)。総合合格率90%以上を3年連続で続けているのは全国で本学のみでした。これらの結果は、学生の「有能な薬剤師になろう」というモチベーションの高さ、そしてそれを実現するために教員が一丸となって支援していく本学部独自の教育システムが効果的に機能した結果と思います。大学では勉強に取り組む環境に工夫し、学生が先生に話かけやすい場所にスペースなど設けるなど行っています。臨床薬学系実習に携わる薬学教員は、ほぼ全員薬剤師として勤務したことがありますので、現場の様子も伝えることができます。また、学生自身も、信じられないかもしれませんが、土、日曜日に大学に来て勉強しています。

医療人GPに選定された2006年度に入学した薬学教育6年制の1期生は来年春に薬剤師として巣立ちます。助成により構築された薬学シミュレーション教育法は、学生のみならず現場の先生方のお役に立つような教育法に継続して改良していくべきと考えております。実際に、薬剤師を取り巻く環境もここ数年で大きく変わってきている中、学生には将来、基本的なバイタルサインの確認やフィジカルアセスメントの能力を身につけ、医療チームの薬剤師としての一員として新たな役割を担っていくことを期待しています。 

 

既に病院や薬局に勤務されている薬剤師さんについて 

薬剤師さんの役割が拡大する今、既に病院や薬局で活躍されている薬剤師さんにバイタルサインを確認するというのは大変なことではないでしょうか。

 

薬の交付の際に、薬効や副作用を口頭で説明するだけでなく、患者に触れ、心音、呼吸音、脈拍、血圧や体温などを測定することで、副作用の早期発見および適切な薬物治療への提言、適切な医療機関へと紹介・受診勧奨を行うことも、医療提供施設としての働く薬剤師が果たすべき役割であると考えます。しかし、ご質問のように現薬剤師がバイタルサインの確認やフィジカルアセスメントについて学ぶことは様々な医療機器やシミュレータを使用することも多いため困難なようです。日本病院薬剤師会は2008年6月に薬科大学に対して薬剤師によるバイタルサインの確認の必要性など新たな薬剤師業務につながる教育を要望しています。

本薬学部では、薬剤師向けの研修会を大学で実施することは、日本病院薬剤師会が推奨する社会的使命に適うものであり、地域貢献の観点からも有意義であると考えています。現在、依頼のありました研修会につきましては九州保健福祉大学との共催という形で開催させていただいております。薬学部ベッドサイド実習室には様々なシミュレータがあるため、バイタルサインの確認とフィジカルアセスメントを取得するには最適な環境となっています。構築されたバイタルサインの確認、フィジカルアセスメントおよび薬学シミュレーション教育法への取り組みにつきましても、学会等で公表させていただいております。また、本学ホームページにおいても随時公表していきたいと思っています。

 

最後に読者にメッセージをお願いします。

 

薬学部ベッドサイド実習室九州保健福祉大学臨床薬学第二講座では、現薬剤師に対してバイタルサインの確認法やフィジカルアセスメントについて体験していただける研修会を行っています。ご興味のある先生方のご参加をお待ちしていますので、お気軽に御相談ください。

また、医師や看護師さん、検査技師さん、臨床工学技士さんには、薬剤師も薬効評価、副作用の確認の為にバイタル・フィジカルアセスメントを取り始めるようになりました、ということを知っていただきたいですし、色々ご指導いただきたいので宜しくお願いします。 3年程前からスキルミックスという言葉が聞かれるようになりました。足りない箇所をお互いの技術を共有し補い合うというものですが、薬剤師もその中に参加させていただければチーム医療も上手くいくのではないかと考えています。

もちろん薬剤師は、薬のスペシャリストとして薬の観点から積極的な医薬品の適正使用のために携わるということは忘れてはいけません。

  

最後に臨床薬学第二講座の髙村徳人教授をはじめ、緒方賢次講師、瀬戸口奈央助手のご尽力もあって、ベッドサイド実習や研修会は成り立っております。上司やスタッフにも恵まれ感謝しています。

 

九州保健福祉大学薬学部 臨床薬学第二講座 徳永仁先生へのメールは以下よりお願い致します。

■Eメール: j-tokunaga@phoenix.ac.jp 

 

〔終わり〕

(2011年8月更新)

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