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シンガポールの医療政策と医療教育事情

はじめに

医療費は、このCPFの一部で賄われます。積立率の6%がメディセーブという口座に入ります「今後数年間で海外から100万人以上の外国人患者を受け入れる」。もし、日本でそんな事を言い出したら、どうでしょうか?皆さんは狂気の沙汰と思われますか? ところが、「全国民の約1/5にあたる外国人患者を2012年までに受け入れよう」と国家戦略に掲げている国があります。 シンガポールです。


11 世紀、その島を訪れた王子がその土地でライオンを見たことにより「ライオン(シンガ)の都市(プーラ)」=“シンガポール”と名づけられた小さな国。いま まで観光で訪れられた皆さんも沢山おられるかと思います。残念ながら、今となってはどこを探してもライオンを見つけることはできません。見られるのは、世 界三大がっかりのマーライオンだけです(因みに、コペンハーゲンの人魚姫とブラッセルの小便小僧が残りのがっかりだそうです。京都タワーなんかもいい線を いっているのですが?・・蛇足です)。
中国系の人達により建国されたこの国には天然資源がありません。水さえも隣のマレーシアに供給を仰いでいます。人とその営みから生み出されるサービスだけ が、この国の資源なのです。そうしてこの国は医療サービスを戦略的基幹産業に位置付け、2012年までに100万人の患者さんと、そこから落とされる26 億シンガポールドル(以下S$)(GDPの約1%)の外貨収入獲得を目標に掲げているのです。今回はシンガポールの医療政策と医療教育事情についてレポー ト致します。

 

シンガポールの保険制度と政策 医療保険制度

 

意外な事にシンガポールの平均寿命は80歳(2006年WHO報告)。

日本の82歳には及びませんが、ドイツ79歳、米国78歳、中国72歳と他の大国に較べてもずっと立派な数字、いまや長寿国のひとつとして数えられます。然しながら、シンガポールの国家歳費に対する医療費割合は6.3%(06年1843 百万S$)と抑制されています。また、日本のような強制的な社会保険制度もありません。

では、どのような制度で、高い医療水準とサービスを維持しているのでしょうか?

シンガポールの医療制度はこのメディセーブ、メディシールド、メディファンドという3つのMで支えられています。メディセーブ、メディシールドはあくまでも国民の自助

シンガポールにはCPF(Central Provident Fund 中央積立基金)という制度があります。

この基金は被雇用者と雇用者により毎月積み立てられます。

負担率は経済状況により随時変更されますが(景気が悪くなると雇用者の負担率を軽減し雇用安定化のバッファーとしているようです。また高齢者の雇用促進のため、ある年齢以上の被雇用者に対しては雇用者の負担率も下げています)、被雇用者の月収に対し、おおよそ雇用者が15%、被雇用者が20%の負担率となっております。CPFの積立金には年2.5%以上の利子がつきますが、積立金及びこの利子ともに非課税扱いとなっています。

 

このCPFですが、日本の年金制度とは大きく異なります。

ある年齢に達すると、積み立てたお金を自分で引き出す事が可能となり、老後の生活費の一部(または大部分)とすることができます。つまり、CPFは強制的に自分自身で貯蓄するような制度なのです。医療費は、このCPFの一部で賄われます。

 

積立率の6%がメディセーブという口座に入ります。病院に通ったら、このメディセーブ口座から一部を引き出し、その治療費に当てるというシステムになっているのです。これらは自分のお金です。使用しなければ、それだけ多くのお金が残ることになります。従って、国民はやたらに病院に行かなくなります。それが全体をあらわすわけではないでしょうが、話を聞いた何人かのシンガポール人は「咳ぐらいでは病院に行かない」と言っておりました。但し、あくまで自分の積み立てた金額が上限となります。メティセーブだけでは、長期入院や高額な医療に対応することはできません。
そこでメディセーブに加え、メディシールドという制度を ’90年より導入しています。これはメディセーブ口座の一部を民間の医療保険会社の支払いに回し、メディセーブ口座残高で対応できないような治療に対しては民間の医療保健会社に対応させようとするものです。 なんらかの理由によりCPFに加入できない国民も数は少なくても存在します。これらの低所得者層を救済するために、シンガポール政府は’93年よりメディファンドという制度を設けています。収入証明を提示し、年収が定められた金額より低い人々の医療費については政府が医療費を補填する仕組みになっています。 

 

つまり、シンガポールの医療制度はこのメディセーブ、メディシールド、メディファンドという3つのMで支えられています。メディセーブ、メディシールドはあくまでも国民の自助。最後のメディファンドのみが直接的な補助という形になります。

 

従い、政府の医療費関係支出はこのメディファンドと公立病院への補助(維持並びに老齢者、就学児童の医療費一部補助等)に限られますので、その歳出を押さえることができるのです。シンガポール人の大多数が「政府の医療政策はうまくいっている」と評価していることから鑑みると、シンガポールの医療制度は日本のそれよりは機能しているようです。 

 

シンガポールの保険制度と政策 医療政策

 

冒頭で記述したようにシンガポールは医療サービスを国の基幹産業として捉え、’12年までに100万人の外国人患者さんを受け入れようとする目標を掲げています。

2000年時点での外国人患者受入数は約15万人ですから、その6倍以上の外国人患者受入態勢を整えアジアの医療のハブになろうとしている訳です。日本では「美しい国」を提唱された首相が、具体的な施策を講じることもなく早々に退場してしまいましたが、シンガポールでは掛け声だけでなく、実際にその具現化に向けた数々のアクションが取られているようです。

 

シンガポール政府は2005年、Strategic Manpower Conversion Program(SMPC, 戦略的就業者転換計画)を設けました。

国が指定した基幹産業により多くの就業者をシフトさせよとする政策です。

この一環として医療サービスについては看護師を大量に養成するためにITE(Institute of Technical Education)という施設を作りました。ただ箱物を作っただけではありません。政府補助により入学金・授業料を極めて低く押さえ、より多くの人間をシフトさせよとしているのです(ITEを訪問された日本のある看護大学の先生は入学金・授業料のあまりの安さに驚かれていました)。

また、今まで4年制の看護学部はありませんでしたが、今年より国立シンガポール大学に4年制の看護学部も設けています。

 

医科大学については、国立シンガポール大学の1校しかありません。そこで、医療の国際レベルを維持するためにシンガポール政府は海外の有名医療機関を積極的に誘致しています。既に米国のジョン・ホプキンス大学のがんセンター、メイヨー・クリニックの施設誘致に成功しています。

この様に、シンガポール政府は100万人の外国人患者さんを受け入れるためのインフラ作りを着々と進めています。勿論、乗り越えなければならない課題はいくつか残っている様です。長期入院には対応できるが、日帰り入院の施設数が充分でない。米国の保険会社ではシンガポールで治療を受けた内容の一部を保険求償の対象としないなどなど。

 

但し、有言実行。アジリティー(迅速性)を持った対応をする国ですので、近々これらに対する改善、解決策も打ち出してくるのではないかと思われます。

 

 

シンガポールの医学教育と高機能シミュレータ

 

海外では医学教育用にシミュレータが盛んに活用されています。現在のところ生理学・薬理学モデルを搭載したHi-Fidelity(*)という範疇に入る高機能シミュレータは米国のMETI社1社のみが製造しております。このMETI社のHi-Fidelity Simulatorですが、ドイツでは医科大学の97%が医学教育に取り入れております。

米国では78%。日本ではまだ約4割の医科大学が使用するにとどまっています。ところが、シンガポールでは100%の医学・看護教育施設が、METI社の高機能シミュレータを教育に取り入れています。医学教育における高機能シミュレータの有効性を理解しているのがシンガポールなのかもしれません。

外国人患者受入体制を整えるべく優秀な医療従事者を作るためには高機能シミュレータ教育が必然と判断しているのかもしれません。それがどのように使われているのか、シンガポールのITE Collage East (Institute of Technical Education Collage East)の取組み例を次頁に紹介させて頂きます。

 

*:Hi-Fidelity: 「Hi=高い、Fidelity=現物にそっくり、真に迫っていること、 迫真性」 

 

ITEによる高機能シミュレータ教育 (1)

 

ITE College EastはシンガポールのSMCP (Strategic Manpower Conversion Program)という政策の一環により創立された施設です前述の様に、ITE College EastはシンガポールのSMCP (Strategic Manpower Conversion Program)という政策の一環により創立された施設です。小さな国という事もあり、政策立案からその実行までの リード・タイムも短く、SMCP政策が発表されて間もなくこのITE College Eastが開校しています。
シンガポール政府は、現在・将来の外国人患者受け入れために看護師の育成を急いでおり、その受け皿のひとつがITE College Eastというわけです。従い、いかに高い水準の看護師を大量に育成するかがITE College Eastの命題となっており、そこではMETI社製の高機能シミュレータが大きな役割を演じています。

 

ITEの教育システム 

TE College Eastでは2年制の看護教育を行っており、現地でCertificate Nurseと呼ばれる看護師の教育・養成をおこなっています。教育の50%は臨床に即した実践教育を謳っており、入学1年目は座学による基礎教育が行なわれます。2年目は全て臨床教育に振り当てられます。2年目の最初の3ヶ月は高機能シミュレータを使用し、臨床研修のための事前教育がなされます。その後、3ヶ月間のシミュレーション教育と臨床研修の反復で徹底的に実践的な看護師養成が目指されています。病院での臨床研修期間であっても、もしある生徒がそこまでのレベルに達していないと判断されれば、即ITE College Eastに戻され、シミュレータによる再教育がなされる病院での臨床研修を経て、再度生徒達は3ヶ月間のシミュレータを使用した学習に戻ります。

このシミュレータ教育では一回目のそれに較べ内容的にレベルアップしたシナリオが使用されるとのことです。この二回目のシミュレータ教育のあと生徒達は、再び病院の臨床研修に臨み最終的な仕上げがなされます。

 

つまり、シミュレーション教育と臨床研修の反復で徹底的に実践的な看護師養成が目指されています。病院での臨床研修期間であっても、もしある生徒がそこまでのレベルに達していないと判断されれば、即ITE College Eastに戻され、シミュレータによる再教育がなされるとの話でした。

 

 

ITEによる高機能シミュレータ教育 (2)


高機能シミュレータの使用方法

サテライト型に擬似的なICU、ER、NICU、一般病棟が設けられており、コントロール・ルームからは全ての病棟が観察できるようになっていますITE College Eastのシミュレータ教育はシミュレーション・センターと呼ばれる構内の特別な場所で行なわれます。シミュレーション・センターの正確な床面積は掴んで おりませんが、小さな体育館と言っても過言ではないほど、充分なスペースが割かれております。センターの中央にコントロール・ルームがあり、それを中心に サテライト型に擬似的なICU、ER、NICU、一般病棟が設けられており、コントロール・ルームからは全ての病棟が観察できるようになっています。各シ ミュレーション・サイトの横には鏡張りの観察・デブリーフィング・ルームが設けられています。

 

またシミュレーション・サイトには3つのカメラとマイクが設置されており、観察・デブリーフィング・ルームからは鏡越しにシミュレーション風景を観察するだけではなく、モニターとスピーカーにより、詳細な画像とシミュレーション時に交わされる会話を拾えるようになっています。生徒達は 20名ごとにシミュレーション教育を受けますが、シミュレーション・サイトで実習を受ける数人のほかは観察・デブリーフィング・ルームでシミュレーションを観察します。

 

ただ、見ているだけでは遊んでしまう生徒も出てきます。これを防ぐために、各人に評価表を持たせシミュレーションの評価をさせると共に、シミュレーション後に講義を含めた徹底的な討議が行なわれます。

デブリーフィングの模様を観察させて頂きましたが、非常に活発な意見交換がなされ、とても白熱した感じでした。ITE College Eastが行なったアンケート調査では、95.8%の生徒がシミュレーション教育を「有意義・効果的」と評価しているとの話です。

ITE East CollageではMETI社製モデルHPSx1台、ECSx2台、ベビーシムx1台の合計4台を所有しており、それぞれHPSはICU Ward、ECSはER Ward、ベビーシムはPediatric Wardで使用されています。

この他に、来春早々に上市されるMETI社のiStanという新型の高機能シミュレータも既に発注し、デリバリーを待っているとのことでした。ITEでは高機能シミュレータを使用した教育用に、既に100近いシナリオを独自開発し利用しているとのことです。今や高機能シミュレータは彼らのカリキュラムに無くてはならないツールのひとつとして採用されています。

 

大変に長くなりました。本文章をここまでお読みいただいた方には心より感謝いたします。ただ、もうひとつだけ蛇足をお許しください。 我がIMIはMETI社設立後初の海外代理店となり、爾来10数年の月日をMETI社と共に歩んで来ました。世界で唯一 Hi-Fidelityタイプと呼称される高機能シミュレータは、日本ではIMIのみが取り扱っております。METI社のシミュレータに関心をお持ちになられた方、興味を持たれた方はどうかお気兼ねなく我々にコンタクトください。またITE East Collageを視察されたい方がおられましたら、現地へのアポイントメントを含め、こちらからサポートもさせて頂きます。 

 

(報告) 菊地

 

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