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第3回 Helioxの治療上の利点と臨床的な問題点について [最終回]

John  【解説】John D. Davies氏
 Duke University HospitalのRRT 、Clinical Research Coordinator

 

 

質問  Helioxを使用する上で臨床的に問題点はありますか?
答え 我々が15年前にHelioxを使い始めた当時の対象患者さんは非挿管患者さんでした。そしてHelioxの使用を続ける中で、挿管患者さんにも効果があるはずだと考えるようになりました。 しかし、10~15年前にはこの種のガス用にキャリブレーションされた人工呼吸器は存在しませんでした。その当時、我々が直面したのは、1回換気量による肺損傷でした。 ある人工呼吸器では1回換気量が多く、他の人工呼吸器では少なく供給されてしまいました。
そのため前者ではvolutraumaが、後者では高炭酸ガス症が発生しました。高密度ガス用に設計された人工呼吸器の回路やそのバルブを低密度ガスが流れたためでした。 また、人工呼吸器が作動していても、人工呼吸器に表示される数値は正確か判りませんでした。 Heliox用にキャリブレーションされた機械を持つことが大変重要なのです。
さらに問題なのは、アラームに影響が出ることでした。アラームは人工呼吸器の測定値を元にしているからです。500mL送っていると思っていても、実際には900mLが送られ、アラームは500mL(の測定値)に対して作動するのです。
そのため、いくつかのアラームは実際には作動しないことがあることにも注意しなければなりません。

他にも、FiO2の変動という問題があります。 80%とか70%ヘリウムを供給し、酸素ガスでバランスしている場合、人工呼吸器によってフロー特性が異なるため、設定FiO2を100%信頼することができませんでした。そのため、明らかに回路に酸素濃度計を入れる必要がありました。

 

      臨床的な問題点
    • □ 1回換気量による肺損傷
      • ◆ 1回換気量が多すぎる-Volutrauma、Barotrauma
      • ◆ 1回換気量が少な過ぎる-高炭酸ガス
  • □ 換気量アラーム作動による非効果的なガス供給
  • □ FiO2の変動
  • □ Helioxによってジェットネブライザを駆動することにより気管支拡張薬の沈着量が減少
  • 法的責任

 

質問 ジェットネブライザの駆動ガスとしてHelioxを使用すると、なぜ気管支拡張薬の沈着率が悪くなるのですか?
答え Helioxを駆動ガスとして使用した場合には、エアロゾル沈着で見た結果と反対のデータとなっています。(つまり、Helioxを回路内に流せばエアロ ゾルの沈着が良くなりますが、一方でネブライザの駆動ガスとしてHelioxガスを使うと沈着率は悪くなってしまうということです。)
多くの人工呼吸器ではネブライザの駆動に内部からのガスを使っています。そのため、このことは重要なのです。Helioxを駆動源とした場合、呼吸回路へのネブライザの沈着量は非常に少ないことに注意してください。

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【図の解説】左側のスケールはアルブテロールの供給を示しています。

下側のスケールはガス密度を示しています。グラフ左端では、80%ヘリウム、20%酸素の混合ガスを使っています。右に移動するにつれて、酸素とエアーガスになります。

 

 

質問 これまでのところでHelioxガスの臨床的効果について理解できましたが、なぜここまで効果のあるガスが一般的に使用されていないのでしょうか?
答え 我々が気づいた障壁は、『Helioxが機能しない症例がある』という認識がまだあるということです。適切な患者さんに使う必要があります。また、期待す る臨床的な効果について知っていなければなりません。また、Helioxは酸素やエアーよりも高価です。ICUにHeliox配管がなければ、Heliox用ボンベは大型で、ICUではスペースをとります。保管場所も必要になります。セットアップが複雑という認識もあります。このため、 Heliox用に補正された人工呼吸器が必要になります。補正された人工呼吸器があればセットアップは難しくありません。それでもボンベは必要でしょうけ れども、一旦セットアップが終われば、換気量を心配することもなくなります。

 

質問 ケーススタディーの紹介をお願いします。
答え <症例1>13歳の患者さんで、他院に来院。そこで気管支拡張薬による治療がなされましたが、 うまくゆかず挿管され、当院に送られてきました。入院時のPaCO2はあまり悪くなかったのですが、1日後89まで上昇し、そのためpHも7.20に悪 化。 この時点で、Helioxの使用が決断されました。幸運にも70%Helioxで開始できました。

つまり、患者さんは30%酸素を受けることができたわけ です。幸運にも患者さんの酸素化要求は上昇せず、高濃度のHelioxを使用することができました。1時間後にPaCO2は89から67に低下。患者さん は改善を続け、30時間後には抜管できました。

これは、早い段階での使用例です。アルブテロールと気管支拡張薬などが同時に投与されました。

さらに96時間、フェイスマスクによるHelioxとアルブテロールの使用が継続されました。7日後には病棟に移され、回復が見られ、2日後には帰宅でき ました。

 

<症例2>重積喘息発作を起こした24歳の女性患者さんです。呼吸不全により挿管。血液ガス は、pH 7.08. PaCO2 が117. PaO2 が65でした。ややPaCO2が高いのですが、PaO2はあまり悪くありません。FiO2は55%。

これはちょっと問題ですが。 患者さんは症例1の患者さんよりも酸素化要求があったため、50%ヘリウムでの開始となりました。EtCO2は3分で99から63に低下。PaCO2も 117から67に低下。

抜管され、フェイスマスクによるHelioxとアルブテロールの投与が継続されました。非常に効果が早く出ています。

 

<症例3>4歳半の患者さんです。心移植後に複数の医学的問題を抱えていました。移植後、一旦帰宅していましたが、cardiac allograft rejection(同種心移植片拒絶)により救急部に戻っています。
拒絶反応で広範囲にわたり喘鳴を伴うARDS状の状態に進行し、挿管され、機械換気を受けました。結局、Helioxによる治療を受けることになりました。 この症例で何故我々がHelioxを使ったかというと、広範囲にわたる喘鳴を聴診し、十分な酸素を投与したにもかかわらず、喘鳴が弱くならないため、Helioxが有効ではないかと考えたのです。60%Helioxでスタート。
50%前後のHeliox濃度を常に維持させるようにしました。すると患者さんは次第に良くなり、やがてHelioxは60%まで上昇しています。この時点でPaCO2が再び上昇を始めたため、Helioxを70%に上げました。

 

その結果、CO2は下がっています。興味深いのは、この間、PaO2は安定していたことです。この点で、我々はラッキーだったと言えます。70%ヘリウム 投与ということは、酸素は30%しかないということですから。この間、PaO2は比較的高かったことが判ります。但し、お示ししたいことは、ヘリウム需要 は一定ではなかったということです。変動することもあります。酸素化の影響とともに、変動が見られます。

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【表の解説】 一番左の列は挿管からの時間。左から二列目はHeliox投与量。
そこから順に、PaO2、PaCO2、pH。挿管前(一番上の段)では、PaO2が74、PaCO2が92、pHが7.12。 挿管後、PaO2は107に上昇し、PaCO2は52に低下。pHは悪くありません。

 

 

 

この患者さんは18日間挿管され、その間、16日間、Helioxを投与されました。ARDSを持っていたので長くなりました。喘息患者さんの様に、早く改善はしませんでした。 18日目に抜管され、数週間後に帰宅しています。挿管時、PICUではこのような改善は殆ど無いというものでした。この効果に、我々は大変満足しています。

 

 

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