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経肺圧(肺内外圧差)を理解する

経肺圧を理解する Dr.Edger J.Jimenez

アイ・エム・アイ株式会社 人工呼吸器部 村上慎悟
第41回日本集中治療医学会学術集会にて開催された、フロリダ大学教授Edger J. Jimenez先生による教育セミナーLS-6「経肺圧(肺内外圧差)を理解する」の講演内容をご紹介します。食道内圧測定による経肺圧(肺内外圧差)の理解と、重症呼吸不全症例に対する人工呼吸器設定のご参考になれば幸いです。

 

なぜ肺保護が必要か?

 

人工呼吸管理を行う上で、肺保護は常に念頭に置いておくべきことです。Barotrauma, Volutrauma, Biotrauma, Atelectraumaを防ぐことが非常に重要です。なぜなら、呼気終末時に肺胞が開いていなければ肺胞にずり応力が掛かってしまい、肺胞損傷を招きます。これらに注意することによって患者さんの転帰は大きく異なると言えます。

 

健常な肺では、吸気、呼気において肺胞はほとんど伸縮せず開いた状態で安定しています。(Fig,1

つまり、肺胞管が伸縮することでガス交換は行なわれているからです。一方、肺障害では多くの肺胞が呼気時に虚脱し(Fig,2)血管外に水分が漏れてしまうことにより肺胞毛細血管と肺胞管の間が離れてしまいます。このように肺胞管の距離が近くなったり遠くなったりすることで、さらに血管外に水分が漏れ肺胞内に水分が入り無気肺を形成してしまいます。 

Fig,1健常な肺

Fig,1

Fig,2肺障害

Fig,2

(画像をクリックすると拡大表示します)

 

Steinbergら1)は動物実験で、Low PEEP group (3cmH2O)に4時間人工呼吸管理したところ、肺障害モデルの肺胞は不均一であるが、正常な肺胞とダメージを受けた肺胞が混在していることを報告しています(Fig,3)。これらダメージを受けた肺胞は肺胞の構造が崩れており、水分、赤血球、炎症性タンパクが肺胞内に多く漏出しています。しかし、このグループに15cmH2OのPEEPを付加したところ、ダメージを受けた肺胞は炎症状態は見られるものの、構造は正常状態となりました。(Fig,4

Fig,3正常な肺胞とダメージを受けた肺胞が混在

Fig,4肺胞は炎症状態

Fig,3 PEEP3cmH2O 群の電子顕微鏡像 Fig,4 PEEP15cmH2O 群の電子顕微鏡像

 

適切なPEEP値とは?  

 

下図(Fig,5)は、肺障害のモデルにPEEPを0、5、10、15、20、25cmH2Oに設定した場合の電子顕微鏡像です。PEEPが0~20cmH2Oまでは肺胞管内に水分が漏出しているのがご確認頂けるでしょう。また、ところどころに肺胞虚脱が確認でき、PEEP 10cmH2Oであっても肺胞の一部はリクルートされていますが十分ではないことがご理解いただけるでしょう。

Fig,5電子顕微鏡像

Fig,5

左上段よりPEEP=0,5,10cmH2O

左下段よりPEEP15,20,25cmH2O

における呼気時の肺胞を電子顕微鏡で観察した像

 

ARDSNetの試み

 

ARDSNetでは15年以上前より、人工呼吸器による肺障害(VALI)を防ぐための呼吸器設定について様々なstudyが実施されてきました。例えば、ARMA-trialではLow tidal(6ml/kg)と High tidal(12ml/kg)を比較し、Low tidal群において生存率に優位差が認められたことを報告し、他にもPplatを30cmH2O以下で管理することによってVALIの予防となる可能性について報告しました。

また、2010年に発表されたARDSNetで過去に行われた3つの研究、ALVEOLI, LOVS, EXPRESSのメタ解析2) で、2つの非常に重要な点が示されました。

一つ目は、肺障害のない患者へのHigh PEEP(15cmH2O以上)は肺へのダメージを引き起こす。二つ目に、Moderate(中程度)、Severe(重症)ARDS群ではHigh PEEPが統計学的に優位な患者転記の改善をもたらした事から、Moderate(中程度)以上のARDSではHigh PEEPは患者転記に寄与する可能性があると言われています。(Table1

これらARDSNet studyは、人工呼吸器の設定が患者予後に影響する事を示しましたが、ARDSNetのProtocolは生理学的な概念がなく、恣意的であるため人工呼吸器の設定指標として十分であるとは言い切れません。 

Table1 ARDS群

 

Table1

 

経肺圧について

 

原疾患(全身浮腫、腹圧上昇、妊娠、胸郭異常、熱傷)や、体格(肥満)などの違いによって患者さん各々の肺メカニックスが全く異なることを念頭に置かなければなりません。

気道内圧は呼吸管理において重要な指標ですが、Pplat(プラトー圧)は肺の内側の圧をモニタリングしているだけです。しかしコンプライアンスの変化は経肺圧を測定しなければわかりません。

肺容量や疾患が同じであっても標準体型の患者さんと極度の肥満患者さんの胸部レントゲンを比較 してみると、人工呼吸管理のアプローチが大きく異なる ことが理解できます。

Fig,6

 

Fig,6人工呼吸管理も大きく異なる

Fig,6

 

気道内圧とトランペットプレイヤーの関係

 

気道内圧は30cmH2O以下で管理しなければ肺障害を起こす事は知られています。右図(Fig,7)は1969年に行われたstudyで、トランペットプレイヤーの気道内圧を測定したものです。結果、気道内圧は100cmH2Oを超えていましたが、彼らはARDSやALIに罹患しません。なぜならトランペットプレイヤーは呼吸筋を調節して経肺圧を正常範囲内になる様に調節しているからです。

Fig,7気道内圧を測定

Fig,7

 

 

食道バルーンの挿入法について

 

経肺圧によって気道内と胸腔内の圧変動を知ることが出来ます。食道は心臓の後ろ側にあり胸腔に近い場所であるため、食道内圧は胸腔内圧に最も近似した値をモニタできると言われています。また、食道内圧は特定部位の圧であるため、胸腔内の平均圧と考えることができます。ちなみに経肺圧とは、気道内圧から食道内圧を引いた値です。

プラトー時の経肺圧はPtp-plat、呼気時(PEEPレベル)の経肺圧はPtp-PEEPと呼ばれています。もし、患者さんが肥満であったり頭部挙上や仰臥位にすることで、肺周囲の環境は大きく変動し経肺圧も同様に変動します。また、肺胞内圧を適切にモニタリングするためにPtr(気管内圧)を当施設では HFO施行時にしばしば測定しています。 

Fig,8

Fig,8食道バルーンの挿入法

Fig,8

 

食道内圧測定カテーテルですが、8Frのカテーテルは細く曲がりやすいため留置困難であるケースがあり、当施設ではあまり使用しません。一方、NGチューブタイプのカテーテルは留置が簡便であるため、当施設では看護師や呼吸療法士が留置しています。留置法はBaydur maneuverと呼ばれる方法で、食道の下部1/3に留置します。カテーテルを進めていくと、Cardiac -Oscillation (心臓の拍動)が確認され、心臓の後ろにバルーンが留置されたことが確認できます。さらに進めるとCardiac -Oscillationが消え、胃に入ったことが確認できます。そこからゆっくりとカテーテルを引いていくと再びCardiac- Oscillationが現れるので、その位置で固定します。

留置位置の確認方法ですが、自発呼吸がある場合は、気道内圧 と食道内圧のドロップが同時に行われている場所が適正な位置 と言えます。(Fig,9

Fig,9食道内圧測定カテーテル

Fig,9

 

腹圧と肺メカニックスについて

 

健常肺をCO2で気腹をした場合、気腹圧が10mmHgを過ぎた辺りでクロスし、さらに上昇するにつれてCcwが下降しPplatは上昇しています。気腹圧が20mmHgを超えるとPplatは30cmH2Oを超え Ccwは10ml/cmH2Oを下回ってしまいます。

たとえ健常肺であっても腹部で何が起きているかによって経肺圧は変動することがお分かり頂けるでしょう。

Table2

 

 

Table2 経肺圧は変動

Table2

・Ccw(ml/cmH2O)=□  ・Pplat(cmH2O)=●

 

 

 

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