掲載:2014年12月 / 文責:レスピラトリ・ケア部
2014年10月28日(火)~30日(木)、福岡にて開催されました「第42回日本救急医学会総会・学術集会」にて「Emergency Medical Services In France‐SAMU‐(フランスにおける救急医療-SAMU-)」と題してランチョンセミナーが開催されました。
座長に岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 救急医学専攻分野 氏家良人先生、演者にフランスよりEmergency and pre-hospital department SAMU of the Annecy General Hospital、Research Unit INSERM UMR 955 Eq 13 , Henry Mondor University Hospital、Medical Director Air Liquide Medical Systems の Jean-Christophe M Richard先生をお迎えし、フランスの救急医療体制及び病院前救急に関する近年の知見も含めたご講演をして頂きました。
Richard先生は集中治療及び救急領域の分野で活躍されており、また呼吸療法も含めた幅広い分野で研究をしておられます。
本講演は救急医療体制という非常に大きなトピックでのセミナーで、内容の構成は大きく5つに分かれています。
ご講演の中で「CPR中の過換気は心拍出量を減少させることで有害であるかもしれないということ」をはじめ救急医療の課題と可能性をいくつもご提示されており、大変興味深い内容となっています。
以下、Richard先生のご講演内容です。
最初にフランスの病院前救急に関して下図スライドをご覧ください。
フランスのディスパッチセンター(dispatch center:救急搬送司令センター)には2種類あり、1つは消防隊(コールナンバー18)、もうひとつはSAMU(コールナンバー15)で構成されてます。
消防隊とSAMUの一番の大きな違いは医師の存在です。消防隊はBLSを担当し、ALSに関しては医師を含めたSAMUが対応します。
SAMUでは医師が24時間電話対応しており、連絡が入った際にはその患者さんの重傷度合いに応じてBLS(消防隊)もしくはALS(SAMU)に振り分けを行い、電話対応や現地派遣などの調整を行います。
我々が救急管轄をするエリアには多くの山岳地帯が含まれており、ALSの患者が非常に多く、2013年の病院前救急で人工呼吸を必要とした患者背景は以下で構成されました。
院外心停止が多数を占めています。
フランスと日本から興味深い文献が発表されています。
フランスのSAMU体制は生存率等にプラス効果をもたらし、日本においてはドクターヘリの搬送が生存率等へプラスの効果をもたらすということが示されています。
病院前救急において重要なことはドクターがマネジメントを行うかどうかということなのでしょうか。
ここでもう一つ興味深い関連した文献を挙げます。
OPALS Study(CMAJ 2008, 178; 1141-1152)においてはALSとBLSの間のパフォーマンスに差は無かった様です。
では何が重要なのでしょうか。救急患者の対応をするスタッフが医師であるかそうでないかということではなく、我々が考慮すべきことは急性期患者に対する対応のスキル、経験、教育プログラム、連携などが重要であるのだと考えます。
病院前救急体制以外に院外心停止患者への対応で関連する文献を挙げます。
次の文献はフランスで最も重要なトピックスです。私の地域では2005年から約17,000件以上の院外心停止患者が記録されています。Single dispatch centerとMulti dispatch centerを比較し、Single dispatch center のアウトカムが良好でした。
日本に非常に興味深いStudyが有ります。
病院前救急の高度気道管理法と成人院外心停止後の患者転帰を検証されたものですが、バッグマスク換気 > 気管挿管 > ラリンジアルマスクの患者転帰が改善したという結果となりました。幾つかの文献で上記結果と同様の記載が有ります。
今後も考えていかねばならないトピックスです。
BLS及びALSの内容は上図のようになっています。
我々は胸骨圧迫と機能的残気量の関係を調べるStudyを行いました。
胸骨圧迫は機能的残気量以下で換気を創出しました。また胸骨圧迫で心拍出量も増加します。
最近のタービン型搬送用人工呼吸器Monnal T60は分時換気量のモニタリングが正確で、CPR中も陽圧換気を行えます。分時換気量を見てみると換気のほとんどがCPRによって補われている事がわかります。人工呼吸器から設定された換気は割合としては小さいものです。
最後にCPR中の換気に関してSurveyの報告です。アンケート結果は以下のようになっています。
結論は以下の通りです。
以上Richard先生のご講演の後、会場から臨床的内容、教育システムなどのご質問をいただきました。
(一例)
会場からの質問
多くの酸素が必要となる心原性肺水腫をバックグラウンドに持つ患者に対して心肺蘇生を行う際には静脈環流の影響を考慮する必要が有ると考えているが、PEEP設定の目安になるようなパラメータ等は何かあるか。
Richard先生
心原性肺水腫とは別にスタディにおいて5~8cmH2Oの設定で行うことが多い。
もちろん心臓への圧迫を行うので静脈環流への影響は有るが、圧迫を解除した際には胸腔内は陰圧となり、その時には静脈環流は促進されるので大きな影響は無いと考える。またCPAPシステムでも5cmH2Oで管理することも多いと感じる。
そういった部分から静脈環流への影響は少ないと考えるので、どの様な症例でも最低限5cmH2Oは設定するべきだと個人的には考えている。
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