掲載:2015年5月 / レスピラトリ・ケア部
2015年4月17日~19日、日本呼吸器学会学術集会(於:東京国際フォーラム、会長:奈良県立医科大学内科学第二講座教授 木村 弘先生)にて、座長に順天堂大学名誉教授 福地 義之助先生をお招きし、イブニングセミナー【高まるDLcoの臨床的有用性の再評価-測定法と診断アルゴリズムの革新-】を共催させていただきました。
演者としてアリゾナ大学よりResearch Professor of MedicineのPaul Enright先生をお招きし、臨床的観点とエビデンスを基に最新のトピックスを盛り込んだご講演を頂きました。
Enright先生は肺機能の研究だけではなく、呼吸医学の研究にも注力しておられます。またATS、ERSの共同研究によりガイドラインが発表されていますが、その診断と管理に関わるアルゴリズムの作成に大きく関与しておられる著名な先生です。日本では必ずしもあまり広く活用されていなかったと言われているDLcoのデータの解釈について、深く考察する機会が少なくなっているようです。
そこでDLcoの値が世界でどのように活用されているか、架空の代表的な疾患をもつ7症例からFVC、DLco、Vaの数値と既往歴から鑑別診断のアルゴリズムを紹介いただきました。
その中で日本では馴染みが薄く、海外では主流となっているパラメータのひとつであるLLN(正常値下限)をご紹介いただきました。
通常の診断では計算式によって求められる予測値の80%以下になった場合、“異常”と診断されています。しかし、世界的には予測値は年齢によって差が出てくるため-20%を目安に判断するのではなく、統計学的な解析を用いて5パーセンタイルを診断項目のひとつとして使用するようになっているとのご説明でした。日本国内でもLLNを求める計算式作成に向けた動きがあり、どのように活用していくかは今後議論の余地があることのことでした。
全世界で広く活用されている代表的なDLco計算式をとってみても、DLcoの数値に差があることがあるため、GOLD委員会が世界的にデータを大規模に収集し予測値の計算式のアップデート作業をしていることが紹介されました。
この背景には、アメリカなどの多民族集団が生活する国においては正しい基準値を計算する予測式が現在確立されていないことがあるとのことでした。国内においても日本人向けのDLco基準値の計算式が現在検討中で、年末には発表されるかもしれないことが説明されました。
今後グローバルでの基準値作成が正確な鑑別診断に必要であることを示唆されました。またDLco測定値の精度を上げるための取り組みとして、同じ患者で2回または3回はDLco検査を行うこと、日々の確認作業のなかで健康な技師の方が自分でDLco検査を行い、数値のばらつきが無いことを確認することで、検査データの品質管理が出来るという方法を提案いただきました。
Enright先生のご講演と質疑応答のあと、福地先生からFVCが下がるような閉塞があるケースの90%はCOPDの傾向があり、肺の過膨張によりトラップガスボリュームがあるためFVCが小さくなること、トラッピングガスボリュームの評価をする際にFVCとVCの差を見ることが、ひとつのキーメッセージであるとコメントされました。そして最後にDLcoは間質性疾患、COPDの診断に役立つひとつのパラメータであり、鑑別診断のためには重要なパラメータであること、今後はDLcoを積極的に測定、評価し肺機能検査に興味を持ち続けてほしいとのお言葉をいただき、閉会となりました。
Enright先生のご発表を拝聴いたしましたが、肺機能検査の重要性を改めて実感し、皆様の診断の助けとなることを願ってやみません。
素晴らしい講演をいただいた演者のEnright先生、大変分かりやすい解説とスムーズな司会進行により本セミナーを成功に導いてくださった福地先生に深く感謝を申し上げます。
文責: レスピラトリ・ケア部
2015年5月