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Helioxの治療上の利点と臨床的な問題点について

はじめに

Helioxとはヘリウムと酸素の混合ガスです。
おもちゃ屋さんに売っていますのでご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、このガスを吸い込んで発声するとドナルドダックのような声になることで有名です。

 

しかしこのHelioxは我々を楽しませてくれるだけでなく、呼吸療法に革新を起こすような凄い可能性を秘めていました!

実はHelioxは気道抵抗の高い患者様に対して低い気道内圧で換気がおこなえるという利点を持っています。
何故かというと、ヘリウムは分子量が小さい単原子分子であり、窒素の2倍のスピードで気道を通過できる特性を持っています。
声のトーンが変わって聞こえるのは、声帯を通過する際のガスのスピードが変わり、声帯の共鳴の仕方が通常のガスと異なるために起こります。この特性を人工呼吸に生かすと、COPDのように気道抵抗の高い患者様でも、通常のガス(エアーと酸素)を使用するよりもより低い気道内圧で換気をおこなうことが可能なのです。
アメリカ合衆国ノースカロライナ州、デューク大学ICUのRRTであり、Clinical Research CoordinatorであるJohn D. Davies氏にHelioxの治療上の利点と臨床的な問題点について、質問形式で分かり易く解説していただきました。

今月から3回連続シリーズでご紹介します。

これがきっかけになり、今後の呼吸管理の一つの選択肢として当たり前にHelioxが選ばれる日が来ることを祈っています。

 


John  【解説】John D. Davies氏
Duke University HospitalのRRT 、Clinical Research Coordinator

 

 

 

質問 Helioxを使いはじめたのはいつからですか?また、何故使おうと思ったのですか?

答え Heliox の初めての使用は1934年で、喘息患者様に対して使われました。我々の施設では1980年代~90年代に使用を開始しましたが、同じく喘息患者様に対して使われています。Helioxはしばらくスタッフに人気がありませんでしたが、最近は我々にとって価値のあるツールとなっています。使用を開始した理由は、生物学的に不活性で副作用がないということ。また、質量が低く、高い拡散率があることです。更に最も重要な点は、密度が低いことです。軽いガスであるということが最も重要なことです。尚、酸素の密度は1.43g/L。100%ヘリウムではわずかに0.18g/L。つまり80%ヘリウムと20%酸素の混合ガスは、100%酸素の1.8倍も低密度で、大変軽いことを意味します。

 

質問 何故軽いガスであることが重要なのですか?

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答え  グラフ上の流量(Flow)を見てください。異る濃度のガスと比較しています。80/20の場合、ヘリウムが80%、酸素は20%です。グラフによると、80/20で最大のフローが得られることが判ります。この、フローが増すことの利点を我々は利用しています。つまり、Helioxは低密度という特性のため、狭窄部位をよく通過すると考えています。

 

質問  他にHelioxを使うことで得られる利点はありますか?

答え ガスは層流だと分子がまっすぐ中に入ってゆきます。逆に乱流の場合、分子がバウンドし、肺内へのガスの短時間の移動が減ります。効率的なガス供給には層流が望ましいと言えます。ただ、実際には、乱流と層流が混ざったtransition zone(移行地帯)が生ます。層流の方が乱流よりも効率的にガスを送れるというわけです。大きな気道では殆どが乱流です。気道が小さくなると transition zone(移行地帯)となり、正常肺では末梢になると層流になります。COPDや喘息患者さんではこのtransition zoneが変化し、乱流域がより肺の末梢に移動すると考えています。このため層流域を肺の末梢まで移動させるHelioxが有効であると考えています。

 

質問  具体的な治療方法を教えてください。

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答え 我々は通常、殆どの文献が示すように、60~80%のヘリウムを使用します。しかし60%以下でも効果があると言う文献も見られます。
一般的には、酸素飽和度が90%以上を保てる限りの最大限のヘリウムを使用します。
呼吸に関する利点としては、”必要とされる肺内外圧差の減少”が挙げられます。
”1回換気量の増加”が得られ、ガス分配の均一化が改善されます。
そのため、より多くのガスを必要とされる場所に送ることができます。また、”CO2の排出を促進”し、”呼吸仕事量を減少”します。これは重要で、COPDで人工呼吸器をトリガーしている患者様の場合、時として、内因性PEEPによりトリガーに問題をかかえることがあります。
Helioxはこの内因性PEEPを減少し、人工呼吸器のトリガーをより容易にします。他に興味深いことは、Helioxを使うことで”エアロゾル供給に改善”が見られることです。この点については、さらに述べさせていただきます。喘息のある患者様では明らかに重要です。気管支拡張のための治療には、より多くを肺に送ることができるからです。

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質問  肺内外圧差の減少について教えてください。 0020

答え この画面はViasys社製AVEAからのものですが、ここに圧、フロー、1回換気量が表示されています。人工呼吸器の設定はボリュームコントロール A/Cモード、換気回数12回/分、ピークフロー60L/分、PEEP 5cmH2O、フロートリガー、酸素濃度21%となっています。実測値は、1回換気量500mL、呼吸数12回/分、ピークフロー40L/分、分時換気量6L/分、動的コンプライアンス(Cdyn)14ml/cmH2O。最も重要なことは、初めの3回の呼吸はHeliox付きで、あとの3呼吸はエアーと酸素に戻しているということです。ボリュームコントロールなので1回換気量は一定で、フローも設定していますから、フローも同じです。違いは圧であることがお気づきになるでしょう。Helioxを使った場合、ピーク圧はわずか 22cmH2Oですが、使わなかった場合、ほぼ40cmH2Oまで達しています。ボリュームコントロールにおけるHelioxの利点は、肺内外圧差を減少させることです。これは肺を保護します。

 

質問  プレッシャーコントロールの場合はどんな利点がありますか?

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答え プレッシャーコントロールでは反対のことが言えます。人工呼吸器の設定は、プレッシャーコントロールA/Cモード、換気回数12、吸気圧17cmH2O、吸気時間1秒、他のパラメータは同じです。 圧を見てください。初めの3呼吸はエアーと酸素によるものです。次の3呼吸ではHeliox付きです。供に酸素濃度は21%。しかし初めの3呼吸ではバランスガスはエアー。次の3呼吸ではHelioxです。圧は同じです。フローが増加し、1回換気量はスケールからはみだしています。これは重要です。というのは、喘息患者さんではCO2の排出が問題となるからです。気道内圧を上げずに1回換気量を増やすことができれば、肺を傷めることなく、CO2を排出ことができることになります。また、プレッシャーコントロールで Helioxを使用すると、フローが増加していることにも気づきます。しかも層流で供給できます。 通常、フローを増すと、乱流が増加しますが、Heliox付きの場合は層流が増加します。そのためプレッシャーコントロールではフローと1回換気量が増加します。我々の施設では、プレッシャーコントロールが頻繁に使用され、Heliox付きで供給されることが多いです。何故なら、これらの二つがよりよいガス拡散を実現すると感じているからです。

 

 

質問

日本国内でHelioxを使用した例というのはあまり聞かれませんが、世界的にはどうでしょうか。どのような研究がされていますか?
答え

Schaefferにより1999年のスタディがなされています。挿管された喘息患者さんについてのスタディです。大きな年齢分布で、レトロスペクティブスタディです。基本的に人工換気開始直後の2時間にHelioxを供給しています。エンドポイントはA-a gradient(A-a格差)の変化でした。彼が発見したことは、Heliox使用群ではA-a格差が有意に低下しているということです。

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質問

「渦巻き効果(The Spiral Effect)」とは何ですか?
答え

「一定量の」Helioxの使用を開始することで、酸素化の改善という効果があらわれます。問題は高いFiO2が必要になることがあることです。スライド3 その場合、ヘリウムの供給量が減ってしまいます。ただ重要なことは、早い時期にHelioxの使用を開始することができれば、ガス交換が促進され、その結果FiO2が減少し、さらにHelioxを増加できます。
このようにしてポジティブな効果を得ることになります。この「渦巻き」効果を得ることにより、Helioxを増加させることで、酸素化を増し、同時に投与するヘリウムの量を増加させることができます。

質問

喘息患者さんに対するHelioxの効果を教えてください。
答え

1995年のKassによる、喘息状態で救急部に送られてきた12人の成人患者さんについてのスタディがあります。 pHは低く、PaCO2は高い状態です。60%ヘリウム、40%酸素あるいは70%ヘリウム、30%酸素が投与されています。
5人は人工呼吸器、7人はフェースマスクによる換気をされています。(現在米国ではフェースマスクをつかってHeliox投与を使用している施設が非常に 多くなってきています。)彼が発見したことは、1時間以内にPaCO2が平均10.4低下、pHは7.23から7.32に増加したことです。しかし興味深 いことは、「反応のない患者さん」は非挿管患者グループにおいて認められたことです。

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【図の解説】PaCO2が左側に示されています。
左はHeliox投与前。右がHeliox投与後。全ての症例でPaCO2の低下が見られます。
発症24時間以内の患者さんが□で、96時間以上が■であらわされています。
発症24時間以内の患者さんの方が、Helioxによる効果が高いという結果が出ています。

 

 

質問

COPD患者さんに対してはどのような効果があるのでしょうか?
答え

2003年、DiehlによってCOPD患者さんの呼吸についてのスタディがなされています。予見的、ランダム、クロスオーバースタディで、ウィーニング期の13人の患者さんが対象です。明らかにこの時期では、患者さんは内因性PEEPに打ち勝って人工呼吸器をトリガしようとしています。1人の患者さんを 除きHelioxにより呼吸仕事量が減少しています。

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【図の解説】
左側のスケールに呼吸仕事量が示されています。左側がエアーと酸素、右側はHelioxを使った患者さんの呼吸仕事量です。一人の患者さんを除き、Heliox使用例で呼吸仕事量が減少しています。

 重要なことは、殆どの患者さんで呼吸仕事量が減少したことです。何故なら、COPD患者さんは予備力が多くないからです。自分の内因性PEEPに打ち勝ち 人工呼吸器をトリガーするだけでも仕事なのです。呼吸仕事量を減らすことができれば、酸素要求量を減らし、ウィーニングをスピードアップできます。

また、呼吸仕事量と共に内因性PEEPに対するHelioxの効果について、2003年にJullietがスタディをおこなっています。
人工換気を受けてい るCOPD患者さんにおいて、内因性PEEPとエアートラップがHelioxの使用により減少していることを彼は発見しています。

 【図の解説】
左のグラフはエアートラップガスの量を、右側はYピースで測定した内因性PEEPを示しています。グラフは同じ傾向を示しています。
エアートラップが減ったことにより、内因性PEEPも減少しています。エアーと酸素混合ガスでZEEP(PEEP=0)をつくったのがグラフの左端です。
その右が30分 Helioxを投与。その右が30分エアーに戻したもの。右端は人工呼吸器でPEEPをかけたものです。Helioxを投与することでエアートラップが劇 的に減少し、エアーにするとエアートラップが蓄積していることが判ります。人工呼吸器でPEEPを加えるてエアートラップが減少しています。これは重要で す。エアートラップが起きた場合、患者さんは人工呼吸器をトリガーするため、それらに打ち勝たなければならないからです。内因性PEEPでも同じことが起 きています。

 

答え 2005年、TassauxによるCOPD患者の吸気努力に対する影響についてのスタディです。Helioxを投与されています。予見的、クロスオーバースタディで、10人の患者さんはPSVによる人工換気を受けています。

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【図の解説】
左側のスケールがDelta(差)圧で、横隔膜により、人工呼吸器の吸気をトリガするために作られた圧です。グラフの左側がエアーと酸素によるもの、真ん中がHeliox投与時のもの、右側がエアーと酸素に戻した時のものです。

 

この患者さんでは呼吸仕事量が巨大であり、Helioxの使用により減少していることが判ります。前にも述べましたが、このことは重要で、このような患者さんでは、酸素消費量が減少し、呼吸での仕事量が減少します。この患者さんは、急速なウィーニングが可能です。他に興味深いことに、HelioxはCOPD患者さんで循環動態を実際に改善することがあるということです。これは2年前のLeeによるスタディで、重篤なCOPDと急性呼吸不全、15mmHg以上の収縮期圧変動に見られる、人工換気を受けた25人の患者さんによるものです。呼気相中の心拍出量とpulse pressure(脈圧)を測定しています。

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【図の解説】
グラフ上には、左側のスケールにCardiac Indexが示されています。左側にエアーと酸素時の真ん中にHeliox投与時の右側にエアーと酸素に戻した時のデータが示されています。Helioxの使用によりCardiac Indexが増加していることがわかります。これは重要です。
何故ならCOPD患者さんでは多くが循環系の問題も抱えているからです。
Helioxの使用により、酸素化とともに心臓から一定の負荷を取り除くことができるわけです。二つの治療効果を持っています。
下側のグラフはpulse pressure(脈圧)です。呼気相時のデータです。左側がエアーと酸素時の真ん中がHeliox時の右側がエアーと酸素投与に戻した時のデータです。興味深いことに、同様の結果が出ています。

 

質問

Helioxとネブライザーの併用についていかがですか?
答え

ヘリウムと酸素混合ガスによりエアロゾル供給に改善が見られたというスタディがあります。ベンチテストで、エアロゾルガスを捕らえるフィルタをセットして、エアーと酸素混合の場合とHelioxの場合で、エアロゾルの量を比較しています。

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【図の解説】
左側のスケールはフィルターに着いたアルブテロール投与%です。下側のスケールはガス密度です。色付き■マークは、エアー、酸素、50% Heliox.、 60% Heliox. 、70% Heliox. 80%を示しています。80/20のヘリウム混合ガスを使うことで、エアロゾルの供給が劇的に増加しています。

 

 

質問

これまでの文献での考察を纏めるとどのような患者さんにHelioxガスが有効なのでしょうか?

答え

文献的に、Helioxの使用が有益なclinical indication(臨床使用)を検討してきましたが、明らかに喘息、COPD、上気道閉塞、そういった疾患を持つ非挿管患者さんに何らかの clinical indication(臨床使用)があります。我々は、挿管患者で喘息やCOPDを持った患者さんにポジティブな効果を認めていますが、下気道閉塞の改善 についてはHelioxは一時的な手段でしかないと思っています。また、ARDSやHFOについてはいくつかのレビューがあります。
下気道閉塞の改善について一時的な手段であると言いましたが、Helioxについて他に思い出すのは、Helioxは何もcure(治療)しないということです。Helioxは、何らかの理由で気道閉塞を起こしている状態からの回復を待つなどの一時的な手段であると言えます。

 

 

 

質問  Helioxを使用する上で臨床的に問題点はありますか?
答え 我々が15年前にHelioxを使い始めた当時の対象患者さんは非挿管患者さんでした。そしてHelioxの使用を続ける中で、挿管患者さんにも効果があるはずだと考えるようになりました。 しかし、10~15年前にはこの種のガス用にキャリブレーションされた人工呼吸器は存在しませんでした。その当時、我々が直面したのは、1回換気量による肺損傷でした。 ある人工呼吸器では1回換気量が多く、他の人工呼吸器では少なく供給されてしまいました。
そのため前者ではvolutraumaが、後者では高炭酸ガス症が発生しました。高密度ガス用に設計された人工呼吸器の回路やそのバルブを低密度ガスが流れたためでした。 また、人工呼吸器が作動していても、人工呼吸器に表示される数値は正確か判りませんでした。 Heliox用にキャリブレーションされた機械を持つことが大変重要なのです。
さらに問題なのは、アラームに影響が出ることでした。アラームは人工呼吸器の測定値を元にしているからです。500mL送っていると思っていても、実際には900mLが送られ、アラームは500mL(の測定値)に対して作動するのです。
そのため、いくつかのアラームは実際には作動しないことがあることにも注意しなければなりません。

他にも、FiO2の変動という問題があります。 80%とか70%ヘリウムを供給し、酸素ガスでバランスしている場合、人工呼吸器によってフロー特性が異なるため、設定FiO2を100%信頼することができませんでした。そのため、明らかに回路に酸素濃度計を入れる必要がありました。

 

      臨床的な問題点
    • □ 1回換気量による肺損傷
      • ◆ 1回換気量が多すぎる-Volutrauma、Barotrauma
      • ◆ 1回換気量が少な過ぎる-高炭酸ガス
  • □ 換気量アラーム作動による非効果的なガス供給
  • □ FiO2の変動
  • □ Helioxによってジェットネブライザを駆動することにより気管支拡張薬の沈着量が減少
  • 法的責任

 

質問 ジェットネブライザの駆動ガスとしてHelioxを使用すると、なぜ気管支拡張薬の沈着率が悪くなるのですか?
答え Helioxを駆動ガスとして使用した場合には、エアロゾル沈着で見た結果と反対のデータとなっています。(つまり、Helioxを回路内に流せばエアロ ゾルの沈着が良くなりますが、一方でネブライザの駆動ガスとしてHelioxガスを使うと沈着率は悪くなってしまうということです。)
多くの人工呼吸器ではネブライザの駆動に内部からのガスを使っています。そのため、このことは重要なのです。Helioxを駆動源とした場合、呼吸回路へのネブライザの沈着量は非常に少ないことに注意してください。

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【図の解説】左側のスケールはアルブテロールの供給を示しています。

下側のスケールはガス密度を示しています。グラフ左端では、80%ヘリウム、20%酸素の混合ガスを使っています。右に移動するにつれて、酸素とエアーガスになります。

 

 

質問 これまでのところでHelioxガスの臨床的効果について理解できましたが、なぜここまで効果のあるガスが一般的に使用されていないのでしょうか?
答え 我々が気づいた障壁は、『Helioxが機能しない症例がある』という認識がまだあるということです。適切な患者さんに使う必要があります。また、期待す る臨床的な効果について知っていなければなりません。また、Helioxは酸素やエアーよりも高価です。ICUにHeliox配管がなければ、Heliox用ボンベは大型で、ICUではスペースをとります。保管場所も必要になります。セットアップが複雑という認識もあります。このため、 Heliox用に補正された人工呼吸器が必要になります。補正された人工呼吸器があればセットアップは難しくありません。それでもボンベは必要でしょうけ れども、一旦セットアップが終われば、換気量を心配することもなくなります。

 

質問 ケーススタディーの紹介をお願いします。
答え <症例1>13歳の患者さんで、他院に来院。そこで気管支拡張薬による治療がなされましたが、 うまくゆかず挿管され、当院に送られてきました。入院時のPaCO2はあまり悪くなかったのですが、1日後89まで上昇し、そのためpHも7.20に悪 化。 この時点で、Helioxの使用が決断されました。幸運にも70%Helioxで開始できました。

つまり、患者さんは30%酸素を受けることができたわけ です。幸運にも患者さんの酸素化要求は上昇せず、高濃度のHelioxを使用することができました。1時間後にPaCO2は89から67に低下。患者さん は改善を続け、30時間後には抜管できました。

これは、早い段階での使用例です。アルブテロールと気管支拡張薬などが同時に投与されました。

さらに96時間、フェイスマスクによるHelioxとアルブテロールの使用が継続されました。7日後には病棟に移され、回復が見られ、2日後には帰宅でき ました。

 

<症例2>重積喘息発作を起こした24歳の女性患者さんです。呼吸不全により挿管。血液ガス は、pH 7.08. PaCO2 が117. PaO2 が65でした。ややPaCO2が高いのですが、PaO2はあまり悪くありません。FiO2は55%。

これはちょっと問題ですが。 患者さんは症例1の患者さんよりも酸素化要求があったため、50%ヘリウムでの開始となりました。EtCO2は3分で99から63に低下。PaCO2も 117から67に低下。

抜管され、フェイスマスクによるHelioxとアルブテロールの投与が継続されました。非常に効果が早く出ています。

 

<症例3>4歳半の患者さんです。心移植後に複数の医学的問題を抱えていました。移植後、一旦帰宅していましたが、cardiac allograft rejection(同種心移植片拒絶)により救急部に戻っています。
拒絶反応で広範囲にわたり喘鳴を伴うARDS状の状態に進行し、挿管され、機械換気を受けました。結局、Helioxによる治療を受けることになりました。 この症例で何故我々がHelioxを使ったかというと、広範囲にわたる喘鳴を聴診し、十分な酸素を投与したにもかかわらず、喘鳴が弱くならないため、Helioxが有効ではないかと考えたのです。60%Helioxでスタート。
50%前後のHeliox濃度を常に維持させるようにしました。すると患者さんは次第に良くなり、やがてHelioxは60%まで上昇しています。この時点でPaCO2が再び上昇を始めたため、Helioxを70%に上げました。

 

その結果、CO2は下がっています。興味深いのは、この間、PaO2は安定していたことです。この点で、我々はラッキーだったと言えます。70%ヘリウム 投与ということは、酸素は30%しかないということですから。この間、PaO2は比較的高かったことが判ります。但し、お示ししたいことは、ヘリウム需要 は一定ではなかったということです。変動することもあります。酸素化の影響とともに、変動が見られます。

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【表の解説】 一番左の列は挿管からの時間。左から二列目はHeliox投与量。
そこから順に、PaO2、PaCO2、pH。挿管前(一番上の段)では、PaO2が74、PaCO2が92、pHが7.12。 挿管後、PaO2は107に上昇し、PaCO2は52に低下。pHは悪くありません。

 

 

 

この患者さんは18日間挿管され、その間、16日間、Helioxを投与されました。ARDSを持っていたので長くなりました。喘息患者さんの様に、早く改善はしませんでした。 18日目に抜管され、数週間後に帰宅しています。挿管時、PICUではこのような改善は殆ど無いというものでした。この効果に、我々は大変満足しています。

 

 

質問  最後にHelioxを日本で普及させるためにコメントをお願いします。
答え

長い間、Helioxは米国で使われませんでしたが、最近改めて注目されています。特に吸入ガス密度を小さくするHelioxによる呼吸は、肺メカニクス に様々な好影響をもたらします。圧が減少し、そのことによって呼吸仕事量が減少。そして、前述のCOPD患者さんでは酸素消費量が減少し、換気、ガス交 換、CO2排出を促進しています。 お示しした症例からも判るとおり、Heliox供給が可能な限り早い程、特に喘息患者さんでは急激な改善効果が見られ、数日で抜管できます。

しかし Helioxは、Heliox供給用に設計及びキャリブレーションされた人工呼吸器に組み込まれることが理想的です。

我々が使用し、米国で現在まで認可されているのはViasys社製AVEAだけです。使用した人工呼吸器の波形画像もこの機械から取っています。

AVEA

AVEAを使用すれば換気量の心配をする必要がありません。さらに良いことに、法的責任問題も起きません。(米国でのFDAの認可及び日本での薬事承認取得済み)

 

最後に、Helioxは有効な道具ですが、一時的な効果しかないということです。Helioxは何も改善しません。Helioxの効果というのは、治療薬 が効くまでの時間、病気からの自然治癒、回復までの時間などを稼ぐことなのです。Helioxを使うことで、患者さんにとってどのような治療がベストであ るかをプランニングする時間を与えてくれるということなのです。  

 

John D. Davies先生、長いインタビューにお答えいただきありがとうございました。
Helioxが日本の呼吸療法に革新的な変化をもたらす日が必ず訪れると期待しておりますが、その時にはまた先生のご経験をお聞かせください。

 

(人工呼吸器部)

 

 

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