呼吸管理中のトラブルと注意事項
掲載:2009年2月
患者さんに被害を及ぼすことはなかったが、日常診療の現場で、“ヒヤリ”としたり、“ハッ”とする「ヒヤリ・ハット」事例。この発生の三大要因は、「確認が不十分であった」、「観察が不十分であった」、「心理状態(慌てていた・思い込み等)」です。
ヒヤリ・ハット事例を未然に防ぐためには、よく確認、観察する、慌てず落ち着いて行動する、思い込みだけでなく、今一度確認する、といった基本的動作、行動、心がけが重要です。
特に人工呼吸管理においては、様々なヒヤリ・ハット事例が報告されています。今回は、これらを未然に防ぐと共に、安全に安心してご使用いただくための、一般的な点検、準備、注意について紹介しますので、院内の呼吸管理にお役立てください。
※以下の記載内容は全ての機種に共通するものではありません。ここでは一般的な内容を紹介します。詳しくはご使用になる人工呼吸器の取扱説明書、添付文書をご覧ください。
(トラブル例)
コンプレッサのフィルタの目詰まり、配管/コンプレッサからの水の発生、ガス供給圧の不足/過剰
(対策、チェックポイント)
定期的にフィルタの汚れを点検、清掃
本体ガス入力部のウォータートラップに水が溜まっていないことを確認
ガス供給圧力を点検
耐圧ホースの接続を確認
(トラブル例)
精度不良
(対策、チェックポイント)
定期的に吸入酸素濃度を実測し、設定値と一致することを点検
酸素と圧縮空気の供給圧差を無くする
(トラブル例)
換気機能やアラーム機能の作動不良
(対策、チェックポイント)
使用前のチェック、定期保守点検(作動確認・点検・調整・消耗品交換など)を実施
設定値(酸素濃度・上限圧・換気量・呼吸回数など)が適正であることを確認、再評価
適切なアラームレベルを設定
アラームが「ON」であることを確認
目視、生体情報モニタ(パルスオキシメータ、呼気CO2モニタ、血圧計、心電図)、換気量計や聴診器などにより、
患者さんの状態を常に観察
フローセンサに水が溜まっていないこと、ネブライザによる薬剤がついていないことを点検
電源コンセントの抜け、取り付け箇所の間違いを点検。コンプレッサとは別電源に切り替える
回路交換や万一の故障、災害に備え、救急蘇生バッグ(アンブバッグ)を準備
(トラブル例)
リーク(コネクタ・チューブなどの接続の間違いや抜け、チャンバの破損、ウォータートラップやネブライザからの漏れ、蛇管の破損)、回路内の結露(水が患者さんの気管内に入った)、加温加湿器(滅菌蒸留水)の補充不足による気道の乾燥
(対策、チェックポイント)
リークテストを実施
呼吸回路の接続を再確認
患者さんの顔や手足の色(チアノーゼ)、胸の動き、呼吸音(左右)を観察・聴診
加温加湿器チャンバに破損のないことを点検
気道内圧が適正な範囲に入っていることを点検
呼気換気量が設定値に近似していることを点検
気道内圧測定チューブ中に水がないことを点検
ウォータートラップ内の水を排水
吸引時に痰の粘調度を点検
吸入ガス温度が適切であることを測定
加温加湿器チャンバが温かいことを点検
温度計、温度プローブが吸気側に入っていることを確認
感染防止のため、呼吸回路やフィルタを定期交換
人工鼻はメーカーの指定に従い交換
患者さん、管理者側のトラブル問題
1.気道確保による・・・
気管チューブ(折れ曲がり、喀痰)などによる閉塞、気管チューブによる口腔・鼻腔・気管の損傷、誤嚥性肺炎の発生
2.人工呼吸器による・・・
ストレスにより胃拡張、上部消化管障害(出血・潰瘍)、消化管蠕動低下、精神症状(ICU症候群など)の発現
3.陽圧呼吸による・・・
(循環)胸腔内圧上昇、静脈還流低下、心拍出量低下、血圧低下、尿量低下、静脈系のうっ血による脳圧上昇、肝うっ血
(肺)圧損傷(barotrauma)、気胸、気腫、肺繊維化
(内分泌)乏尿、Na貯留
4.高濃度酸素投与による・・・
未熟児網膜症、BPD、酸素中毒
1.挿管操作にともない・・・
歯科的損傷、気道損傷、声帯損傷(反回神経損傷)、出血、誤嚥、循環変動、食道損傷、片肺挿管
2.気管支ファイバー施行による・・・
低酸素症、気管粘膜損傷、気道出血、気道感染、ストレス、誤嚥
3.調節呼吸による・・・
換気血流比の不均等による血液ガスの悪化、微小無気肺
4.吸引による・・・
低酸素症、気管粘膜の損傷、FRCの減少
5.体位交換・清拭による・・・
事故抜管、循環器系の変動、チューブ装着部の損傷・潰瘍形成
6.患者抑制による・・・
自己抜管、抑制によるストレス、ICU症候群
以上、今回ご紹介させていただいた内容は、弊社人工呼吸器テキストブックにも掲載しております。体温管理テキストブック、麻酔器テキストブックと合わせて院内スタッフ教育などにお役立てください。
【おわり】