気体の状態による体積(換気量)の変化について
掲載:2010年9月
人工呼吸器の吸気ガスは、加温加湿器のチャンバを通って加温加湿されると体積が増えることをご存知でしょうか。
人工呼吸器の換気量測定時、気体の状態によって測定器(PF-300等)の設定をBTPD、BTPSなどに合わせることから、気体の状態による体積の変化について馴染みがあるかもしれませんが、気体は温度、湿度、圧力の影響を受け、体積が変わります。
今回は、人工呼吸器を語るうえで切っても切れない、気体の状態に関する基礎的なお話をさせていただきます。
気体には、温度、圧力、含まれる分子の量が変化すると、体積が変化する特徴があります。
これら3つの条件変化による気体の体積変化について、以下のイメージ図を用いてご説明いたします。
②圧力低下⇒体積増加 【イメージ図】
圧力が下がると気体の体積は増加します。高地では大気圧が下がりますが、山登りなどで密封されたお菓子の袋がパンパンに膨らむことを経験された方もいらっしゃるかと思います。
先ほどのイメージ図を用いると・・・大気圧が下がるとピストンの押さえが弱くなることから、気体の体積が増加することがわかります。
【補足】
タービンの回転によって外気を取り込んで送気を行う、Tバード、VELAといった人工呼吸器は、「使用場所の標高」を入力する必要があり、仮に「実際の標高」より「高い標高」を入力すると実際に送気される換気量は増えます。
これは、上記のとおり高地では気体が膨張することから、低地と同じ一定の圧力に圧縮された一定量のガス(患者様の肺に入るガス)を送るには膨張した気体を多く取り込む必要があると人工呼吸器が判断し、「高い標高」のため、タービンの回転数が上がるためです。
③分子量の増加⇒体積増加 【イメージ図】
分子量が増加すると、分子の衝突回数は増えることから圧力が上昇し、結果、体積が増えます。
このことから、人工呼吸器の吸気ガスが加温加湿器を通り、水分を含むと、水(H2O)分子(=水蒸気)の増加により換気量が増えることが想像できるかと思います。
上記の圧力、温度、含まれる分子量と気体の体積の関係は、以下の式によって示され、この関係をボイルシャルルの法則と言います。
p:圧力 v:体積 n:モル数 R:気体定数 T:絶対温度
※nは6.02×10の23乗個の分子
上記の式から、以下の関係が成り立つことがわかります。
温度↑=体積↑、 圧力↓=体積↑、 分子量↑=体積↑
前項のボイルシャルルの式からわかるように、気体の体積は温度、圧力、分子量によって変わることから、呼吸管理における気体の状態はこの3つの要素を含んだ以下の英字(4文字)で示されます。
STPD、ATPD、ATPS、BTPS、BTPD
まず、前の2文字が温度であり、以下の温度を示します。
・ST(Standard Temperature)・・・0℃
・AT(Ambient Temperature)・・・室温
・BT(Body Temperature)・・・37℃
3文字目は圧力で、全てPで大気圧(760mmHg)の状態を示します。
最後の文字は乾燥状態か、飽和水蒸気状態かを示します(これが分子量の増減を示します⇒飽和水蒸気状態では、H2O(水)の分子が増加)。
・D(Dry)・・・乾燥状態(水蒸気を全く含まない)
・S(Saturated with water vapor)・・・飽和水蒸気状態
尚、0℃の気体は水分を含むことができないため、STPSという状態は存在しません。
多くの人工呼吸器は、一回換気量が設定されると、加温加湿された状態(BTPS状態)でその設定値になるよう補正して器械が吸気ガスを送ります。
Tバード(VELA)は、タービンによって水分を含んだ外気を取り込んで送気する構造上、吸気ガスはATPS状態であると想定しています。一方、バード8400やAVEAなど乾燥ガス(酸素、圧縮空気)をガス源にしている人工呼吸器の吸気ガスはATPD状態であると想定しています。そのため、加温加湿による吸気ガスの増加量は以下のように異なります。
Tバード(VELA) ・・・ATPS ⇒(加温加湿)⇒ BTPS(温度の上昇分だけ体積が増える)
バード8400(AVEA)・・・ATPD ⇒(加温加湿)⇒ BTPS(温度の上昇分+水蒸気の上昇分の体積が増える)
加温加湿によって予想される吸気ガスの増加分を減らして送気を行うため、
Tバード(VELA)では温度の上昇分だけを考慮して、500mL設定に対して475mL(-25mL)、
バード8400(AVEA)では温度+水蒸気の上昇分を考慮して、500mL設定に対して445mL(-55mL)の吸気ガスを送っています。
以上