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体温管理システム Arctic Sun 2000
横浜市立大学附属市民総合医療センター 高木 俊介先生、田原 良雄先生

掲載:2009年12月 / 文責:クリティカル・ケア部

  

はじめに…

弊社は体温管理装置として、長年米国Gaymar社製メディサーム(ブランケット型)を取り扱っており、周術期における体温管理をはじめ、救急・集中治療領域における体温管理装置としても多くのご施設でご使用いただいてきました。

 

低体温療法*につきましては、2002年 NEJM(The New England Journal of Medicine:HACA study, Bernard study)の報告、その後のAHA Guideline 2005における蘇生後のサポートとして推奨されているのは周知の通りです。また、2006年4月には心肺蘇生後の患者さんに対する低体温療法が保険適用となっており、近年、心肺蘇生後症候群(Post Cardiac Arrest Syndrome;P-CAS)に対する低体温療法が積極的に行われるようになってきました。

 

横浜市立大学附属病院同じ体温管理装置でも、米国Medivance社製ArcticSun2000(以下ArcticSun)を2007年より取扱い始めてから約2年。以来、大学病院を中心とする多くの救命救急センターでご使用いただいております。

 

今回、ArcticSunユーザー施設である、横浜市立大学附属市民総合医療センター 高度救命救急センターから、高木俊介先生/田原良雄先生に、ArcticSunに関するユーザーレポートを執筆していただきました。是非ご一読いただきたく思います。

 

(OR/CC部)

 

横浜市立大学附属市民総合医療センター http://www.urahp.yokohama-cu.ac.jp/

同病院 高度救命救急センター http://www.urahp.yokohama-cu.ac.jp/kyumei99/index.html

 

*低体温療法 ・・・
本稿では一部、脳低温療法という言葉を使用していますが、基本的には日本版救急蘇生ガイドラインの表記と合わせ、「低体温療法」と記載します。

心肺停止! - 突然死を救うために -

横浜消防指令センター高度救命救急センターの救命ホットラインが鳴り、横浜市安全管理局消防指令センターの救命指導医の声が飛び込んでくる。

「60代男性。駅の改札口で突然倒れ、駅員が心肺蘇生を開始。AEDを1回使用しました。救急隊が現場に到着した際の心電図波形は心室細動です。所要10分程度で貴院に搬送可能です。受け入れお願いします。」
「ER、ER。60代男性。VF-CPA、ETA 10分。」と館内放送が流れる。看護スタッフは受け入れの準備を行い、ER担当の医師が救急処置室に集まる。


まもなく、救急車が到着し、ストレッチャーに乗せられた患者が運び込まれる。
「搬送中の電気的除細動で自己心拍が再開!」 救急隊員の声を聞き、待機していた蘇生チームはリーダー医師の指示のもと、すみやかに蘇生後治療を開始する。

救急車が到着し、ストレッチャーに乗せられた患者が運び込まれる   

心肺停止蘇生後意識障害が残存。経口気管挿管による気道確保。末梢静脈路から冷却細胞外液開始。

12誘導心電図で胸部誘導にST上昇あり。Arctic Sun装着後に緊急冠動脈造影開始。

 

注)
救命指導医:横浜市では院外心肺停止傷病者は、原則として直近の12病院に収容する。12病院から12時間交代で医師が消防指令センターに常駐し、現場の救急隊に対するメディカルコントロールを行っている。

CPR: cardiopulmonary resuscitation 心肺蘇生
ER: emergency room 救急処置室 (この場合は、救急患者が搬入されてく ることを知らせる横浜市立大学附属市 民総合医療センター高度救命救急セン ターでのコールサイン)
VF: ventricular fibrillation 心室細動
CPA: cardiopulmonary arrest 心肺停止
ETA: estimated time of arrival 救急患者の到着予定時間

生存退院から社会復帰へ

心室細動による院外心停止に対する治療の動向は、近年、著しい変化を遂げている。
救急救命士による包括的指示下での電気的除細動や一般市民へのAED解禁に伴い、心室細動治療の焦点が、In-hospital(院内)からPre-hospital(院外)へと移行し、治療目標が救命(生存退院)から社会復帰へと変化してきている。

 

AHA Guideline 2005では、心室細動による心肺停止蘇生後の意識障害例に対する低体温療法がClass Ⅱaとなり、Post Cardiac Arrest Syndrome(蘇生後症侯群)に対する関心が高まりつつある。

 

chain of survival

 

心肺停止蘇生後の意識障害例に対する低体温療法が、本邦においても注目され、積極的に行われつつあるが、いつでもどこの施設でも簡便に低体温療法が実施できる体制が整っているとは言い難い。そこで、その一つの解決策として当院ではArctic Sunを導入した。

2003年以降、当院では院外心肺停止蘇生後の意識障害残存例65例に対して 低体温療法を施行している。当院における低体温療法の適応を表に示す。

体表冷却装置による低体温療法

2003年以降、体表冷却装置による低体温療法を施行する場合は、体温調節にはブランケットによる手動調節を用いていたが、温度管理(34±0.5℃維持率)、設定変更回数について、安定していて、簡便であることから、2007年以降は、粘着性熱伝導パッドを使用した全自動体温調節機能を有するArcticSunを使用している。

体表冷却装置により低体温療法を施行した症例(55例)の詳細を表に示す。

 

< Blanket >  2003年6月~2007年7月

体表冷却装置による低体温療法

低体温療法に使用する体表冷却装置をBlanket(N=28)からArctic Sun(N=27)に変更し、

34℃維持時間を48時間から24時間に短縮したが、社会復帰率に有意差は認められなかった。

[ 退院時Good Recovery:Blanket 46% vs. Arctic Sun 65%, p=0.19 ] 

(第37回 日本救急医学会総会,2009年10月,盛岡.)  

 

救命救急医療の現場は、心肺停止蘇生後、重症外傷、熱傷、薬物中毒、敗血症、脳卒中など 対象とする患者は多岐にわたる。そのような現状の中でガイドラインを守りながら質の高い医療を 提供してゆくためには、手間がかからなくて、安全で確実な方法が求められている。 Arctic Sunは、時代の要請に応える形で登場し、今後も普及して行くことが予想される。  コストに関しては、心肺停止蘇生後に対して、低体温療法を開始してから3日間に限り、1日につき 12200点を算定することができるため症例数が増えれば病院経営にも有利になる。  最先端の施設が、血管内冷却法などを使用した低体温療法を施行してゆくことを否定している のではない。今後も安全・簡便で安価な方法が開発され、市中病院に普及することを望む。

 

< Arctic Sun >  2007年4月~2009年4月

PCPSと低体温療法

蘇生後低体温療法の適応の一つに血行動態が安定していることが挙げられている。 「血行動態が不安定な症例にいかに低体温療法を導入するか? 」について 心肺停止に対してPCPS(percutaneous cardiopulmonary support:経皮的心肺補助法)による体外循環装置を使用した心肺蘇生(extracorporeal CPR:ECPR)を施行している本邦のデータが海外から注目を集めている。 PCPSやIABPを使用することで不安定な血行動態を回避できる。 血行動態の安定化のためには、心肺停止の原因が急性心筋梗塞であれば緊急冠動脈カテーテル治療(percutaneous coronary intervention:PCI)が重要である。Arctic SunのパッドはX線透過性があるためカテーテル治療に支障をきたすことは無い。34℃に設定しておけば水温と水量を自動調節し、自動的に目標体温になるため、緊急PCI中にはカテーテル治療に集中できる。  緊急時には、迅速な回路プライミングを必要とするため、当院では熱交換器付き回路よりも PCPS+Arctic Sunの組み合わせを選択することが多い。  

 

 

低体温療法を普及するために

低体温療法をいつでも開始できるようにするためには、スタッフのみならず初期研修医及び学生に周知することが重要である。  ここで学んだ多くの研修医や学生がやがて成長し、活躍することを期待する。

 同病院 高度救命救急センタースタッフのみなさん

【文献情報】

タイトル
新しい非侵襲的体表冷却装置により蘇生後低体温療法を施行した1例
筆者・演者
田原良雄、豊田 洋、石川淳哉、佐々木勝教、松崎昇一、入澤朋子、山崎 諭、山田朋樹、岩下眞之、小菅宇之、荒田慎寿、
森脇義弘、鈴木範行、中山尚貴、木村一雄
掲載・発表
日本救急医学会関東地方会雑誌,29(46):128-129,2008.

 

 

 

ポケットカード

定期的(2回/3ヶ月)にArcticSun講習会を開催し、ポケットカードを配布している。

 

PDF  (ArcticSun・ポケットカード1.43MB)

 

 

(終わり)

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