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エアパッド特定加温装置 ウォームエアー
地方独立行政法人大阪市民病院機構 大阪市立総合医療センター
救命救急センター副部長 有元 秀樹先生

掲載:2017年10月 / 文責:クリティカル・ケア部

低体温療法・目標体温管理療法(TTM)におけるシバリング対策

◆ 有元 秀樹先生 ご略歴 ◆
1997年: 近畿大学 医学部 卒業
1997年: 大阪市立大学 第2外科(心臓血管外科)
1998年: 関西労災病院 胸部外科 研修医
1999年: 国立大阪病院(現 国立病院機構大阪医療センター)
心臓血管外科レジデント
2002年: 大阪市立総合医療センター 心臓血管外科レジデント
2006年: 大阪市立総合医療センター 救命救急センター 医員
2008年: 大阪市立総合医療センター 救命救急センター 医長
2011年: 大阪市立総合医療センター 救命救急センター 副部長
2011年10月~2012年3月: Australia, University of New South Wales,
Liverpool Hospital ICU Observer
2012年4月: 大阪市立総合医療センター 救命救急センター 副部長(現職)
[ 所属学会 ] American Heart Association、European Society of Intensive Care Medicine、日本外科学会、日本循環器学会、日本集中治療学会、日本救急医学会、日本小児救急学会、日本蘇生病学会、日本外傷学会等
[ 資格 ] 日本救急学会専門医・指導医、日本外科学会専門医、日本循環器学会専門医、日本脈管学会専門医、日本集中治療学会専門医、日本蘇生学会指導医、日本DMAT隊員

■ はじめに

蘇生ガイドライン2010および2015において院外心停止症例に低体温療法(Therapeutic Hypothermia : TH「目標体温管理療法(Targeted Temperature Management : TTM)」を行う事によって、予後の改善への有用性が紹介されるようになり、日本でも多くの施設で導入が行われるようになりました。心停止症例のみならず、神経集中治療領域において以前より体温管理の重要性が指摘されており、各施設においても試行錯誤されてきました。

特に、低体温療法中、シバリングなどの合併症によって、目的とする体温コントロールに難渋することは臨床ではよく遭遇します。適切に体温をコントロールするため、鎮静薬の調節などの工夫が行われていますが、現時点ではgold standardとなる方策の結論は出ていません。「低体温療法において最も体温調節に影響する事象はシバリングである」といっても過言では無いと思われます

この度、シバリング対策として、エアパッド特定加温装置:ウォームエアー®(販売元:アイ・エム・アイ株式会社)を使用した皮膚の加温Surface Counter Warmingを実施し、シバリングを防止できた症例をご紹介します。

■ 「そもそもシバリングとは?」

体温中枢は、皮膚に存在する温痛覚の受容体より、脊髄〜視床下部の体温管理中枢を経て、体温管理を目的に末梢血管の収縮・拡張作用をコントロールしています。体表冷却は、その温覚受容体に影響する皮膚を冷却するデバイスであるため、血管内冷却デバイスと比較してシバリングが起こりやすく、体温管理の面で不安定になりやすい点が指摘されています(文献1)。シバリングにより、基礎代謝率が増加するため、冷却導入への抵抗・エネルギーの消費・頭蓋内圧上昇の原因・脳酸素消費量の増加などの面から、シバリングを回避する必要があります。

■ 実際の症例

54歳女性、目撃のある心停止(初期調律は心室細動)で現場にてAEDが使用され、病院到着前に自己心拍が再開のうえ搬送となりました。
来院後も意識の回復が不十分であったため、心臓カテーテルを施行後にArcticSun5000®体温管理システム(販売元:アイ・エム・アイ株式会社)を使用して、目標体温を34℃とし、24時間の低体温療法を行いました。集中治療管理とし、鎮痛薬・鎮静薬としてFentanyl、Midazolamを使用するものの、末梢温と中枢温の差が著明で末梢循環不全がみられたため、鎮痛薬としてDexmedetomidineを追加しました(図1)。

しかし、シバリングの持続がみられたため、ウォームエアー®(販売元:アイ・エム・アイ株式会社:写真A)を使用し、皮膚の加温(Surface Counter Warming: SCW)を追加しました。その後は末梢温の上昇がみられ、次第にシバリングのコントロールが可能となり、低体温療法を終了としました。

■ 症例の解説

当院における確実な低体温療法の集中治療管理方法として、(1)適切な体温のモニタリング、(2)適切な鎮痛・鎮静管理、(3)シバリングのコントロールを重視しています。

(1)適切な体温のモニタリング

体温は末梢温(皮膚温)と中枢温(膀胱温もしくは食道温)の2点を測定しています(図2)。基本的な考えは全身麻酔中の管理と同様で、末梢循環が適切であれば、末梢温と中枢温の差は小さく、逆に末梢温が低い場合には循環血液量の不足や交感神経の亢進(=鎮静の不足)による血管抵抗の増加を考慮します。その結果として末梢循環不全となった場合には、特に体表冷却法において、熱交換効率の低下に繋がることが考えられます。

(2)適切な鎮痛・鎮静管理

鎮静方法として十分な鎮静および鎮痛を行い、交感神経の亢進による末梢血管の収縮を避け、適切な末梢循環の確保が行われることを基本方針としています。鎮静薬としてMidazolamもしくはPropofolを使用し、鎮痛薬としてはFentanylを使用します。加えて、末梢血管の拡張を目的としてDexmedetomidineやα遮断薬の併用を行うこともあります。

(3)シバリングのコントロール

シバリングが発生した際には、まず本当にシバリングかどうかを評価する必要があります。明らかにシバリングとは異なり、てんかん発作であれば、適切な抗痙攣薬の使用および脳波モニタリングを行う必要があります。シバリングの場合は、シバリングの程度をBedside Shivering Assessment Scale:BSAS(文献2)などで評価し、適切な鎮静であるか評価します(図3)。当院では前述の通り末梢温(皮膚温)と中枢温(膀胱温・食道温)の2点を測定し、末梢温と中枢温の差が2℃以上のある場合は末梢循環不全が存在していると判断しています。

(3)-① 薬物療法

薬物療法としての対応は、血管内容量の評価と適切な鎮静・鎮痛の評価を行います。BSASが1点以上であればマグネシウムの投与、アセトアミノフェン(循環血液量が十分で循環動態が安定している場合)を使用し、変化が見られなければ、鎮静薬・鎮痛薬を増量します(図4)。

こういったシバリング対策を行っても、シバリングが抑えられない場合には筋弛緩薬の投与を行います。2016年に発表された重症患者における筋弛緩薬使用のガイドライン(文献3)において、低体温療法中はルーチンとしての筋弛緩薬使用は推奨されていません。筋弛緩薬は、てんかん発作を捉えることができない危険性があるため、シバリングのコントロールに難渋した場合での使用が弱く推奨されています。

(3)-② Surface Counter Warming

上記の薬物療法の前に、末梢循環を改善することで、簡便にシバリングの抑制を目的とする手法がSurface Counter Warmingです。具体的な使用方法としてはホットパックなどで露出している頸部や手・足部を加温、全身をブランケットで覆って加温する方法など、様々な取り組みがされています(文献4)

当院ではエアパッド特定加温装置ウォームエアー®に[ウォーミングチューブ](販売元:アイ・エム・アイ株式会社:写真B)を使用して[SCW]を行っています(図5)。この[ウォーミングチューブ]の特長は、全身を覆う形状ではなく、U字型の形状であるため、四肢のみ加温することができます。

特にArcticSun5000®体温管理システム(販売元:アイ・エム・アイ株式会社)などを使用している場合、四肢のみ加温できる[ウォーミングチューブ]は、体幹への温度の干渉を防ぐことができる点が有効と考えています。実際にSurface Counter Warmingの効果を評価する際には、シバリングの消失、前述の中枢温・末梢温の差が少なくなること、血中乳酸値の改善などを総合的に判定しています。

■ 最後に

改めて述べますが、低体温療法・目標体温管理療法の治療について、未だに適切な方法は定まっていません。各施設での使用機材、集中治療の方法が様々であるため、十分な体温管理ができないとの声を色々なご施設から聞くことがあります。鎮静やウォームエアー®の[ウォーミングチューブ]を使用したSurface Counter Warmingなどを駆使することで、より効果のある体温管理が行われることを望みます。

文献

  1. Gillies MA, Pratt R, Whiteley C, et al. Therapeutic hypothermia after cardiac arrest: a retrospective comparison of surface and endovascular cooling techniques. Resuscitation (2010) 81;1117-1122
  2. Badjatia N, Strongilis E, Gordon E, et al. Metabolic impact of shivering during therapeutic temperature modulation: the Bedside Shivering Assessment Scale. Stroke. 2008;39(12): 3242-3247. doi:10.1161/STROKEAHA .108.523-654.
  3. Murray MJ, DeBlock HF, Erstad BL, et al. Clinical Practice Guidelines for Sustained Neuromuscular Blockade in the Adult Critically Ill Patient. Crit Care Med. 2016 Nov;44(11):2079-2103.
  4. Badjatia N, Strongilis E, Prescutti M, et al. Metabolic benefits of surface counter warming during therapeutic temperature modulation. Crit Care Med. 2009 Jun;37(6):1893-7.
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