アンブシングルペーシェントユース蘇生バッグ(SPUR)成人用は1991年(平成3年)に日本国内で販売が開始されました。SPURは、単一患者(ひとりの患者)専用に使用することで、バッグバルブマスクによる患者間の相互感染を防止する目的で開発されたものでした。当時はまだ、院内感染への関心も決して高くない時代で、各医療機関でも感染対策への本格的な取り組みはされていませんでした。アンブ社は時代に先駆けてディスポーザブルタイプのバッグバルブマスクによる相互感染防止という考え方を持ち込んだのです。その後、2007年(平成19年)4月には、改良版であるSPURの国内販売が開始されました。
弊社で販売を開始させていただいた1998年(平成10年)以降、SPURおよびSPURの販売は増加を続け、2013年(平成25年)には出荷数がついに10,000個を突破しました。徐々に患者間の相互感染に対する対策が取られてきたこともありますが、要因のひとつとしてインシデント対策を挙げることができます。
1999年末には、コンピュータの2000年問題による人工呼吸器の誤作動時の対策として一時的に出荷数が増加しています。2006年(平成18年)から2010年(平成22年)にかけての一時期、出荷数は伸び悩みましたが、3年前の2011年(平成23年)3月11日、まだ記憶に新しい東日本大震災が発生、その後地震などの災害対策としての採用が増加しました。
2012年(平成24年)4月には、大阪でバッグバルブマスクの組み立てを誤ったことによるインシデントが報告されました。組み立てを誤ったことによるインシデントはそれ以前からも皆無ではありませんでしたが、大きく報道されたことでバッグバルブマスクに起因するインシデントに対する見方が大きく変わったと言うことができます。組み立て方法や作動チェック手順などの見直し、添付文書や取扱説明書の整備、医療スタッフへのトレーニングの実施など、各医療機関での対策が進みました。公益財団法人医療機能評価機構や独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)からも安全情報*が発出され、各医療機関の意識は大きく変革したと言えます。
インシデント対策のひとつとして、バッグバルブマスクのディスポーザブル化を検討される医療機関も増加し、SPURの出荷も大幅に増加しました。月平均10個以上ご購入いただいている施設も、2007年(平成19年)の2施設から2013年(平成25年)には16施設に増加しています。
バッグバルブマスクに起因するインシデントへの対策
上記のようなインシデントに対する主な対策としては以下が挙げられます。
1. 組み立て方法に習熟する、作動チェックを確実に実施する
2. スタッフのトレーニング
3. ディスポーザブル製品への切り替え
1.組み立て方法に習熟する、作動チェックを確実に実施する
バッグバルブマスクは部署によって使用頻度に大きな差があります。使用頻度の高い部署では、分解や組み立て、作動チェックを行う機会も多くなり、より習熟することが可能です。一方、使用頻度の少ない部署では機会が少ないこともあり習熟は困難となります。結果として、組み立てを誤る、作動チェックを実施したものの不完全(誤りを発見できない)ということになりかねません。対策として、分解や組み立てを行う部署や担当者をME室(臨床工学技士)などに限定することが挙げられます。この場合、担当者の負担が増すことにはなりますが、リユーザブルのバッグバルブマスクを使用する場合のもっとも確実な安全対策のひとつです。
2.スタッフのトレーニング
分解、組み立てや作動チェックを病棟など各部署で実施する場合、各部署のスタッフ教育を十分に行い確実に実施できるようにすることが必要となります。しかし、使用頻度の少ない部署では習熟が難しく、トレーニングも繰り返し実施する必要があります。トレーニングに係る経費や時間などは大きな負担ともなりますし、組み立てを誤る、作動チェックが確実に実施できないということを完全に無くすことは困難です。
3.ディスポーザブル製品への切り替え
アンブSPURをはじめディスポーザブルのバッグバルブマスクは分解できません。したがって組み立てというもっとも間違いが発生しやすい工程を無くすことができます。当然作動チェックは必要ですが、組み立てを間違える可能性はなくなります。もっとも確実な安全対策だと言うことができます。ただ、使用頻度の高い部署では使用数が多くなりますので経費的な負担は大きくなります。
それぞれの対策には利点、欠点があります。各施設の実情に合わせてご検討ください。
弊社ではディスポーザブル製品(アンブSPURⅡ)への切り替え、バッグバルブマスクのメンテナンス契約などをご用意しています。バッグバルブマスクの安全対策については弊社までお気軽にご相談ください。
* 公益財団法人日本医療機能評価機構 医療安全情報No.74 2013年1月
http://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_74.pdf
* 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 PMDA医療安全情報No.38 2013年5月
http://www.info.pmda.go.jp/anzen_pmda/file/iryo_anzen38.pdf
文責: ORCC/教育部
(2014年3月更新)