掲載:2015年10月 / 文責:レスピラトリ・ケア部 ベンチレータチーム
搬送時の呼吸管理から救急、ICU、病棟での呼吸管理にまで幅広くご使用いただける人工呼吸器「MONNAL T60」に新機能が追加されました。
前回ご紹介しました「呼吸モード」、そして今回ご紹介させていただきます「酸素療法機能」です。
酸素療法は、患者さんへの酸素投与流量と使用する器具により、「低流量システム」「高流量システム」「リザーバシステム」の3つに分類されます。さらに近年、高流量の酸素を鼻カニューラを通じ、患者さんに供給する高流量酸素療法(ネーザルハイフロー)と呼ばれるシステムが注目を集めています。
低流量システム: | 酸素マスクや鼻カニューラを使用し、一回換気量以下で酸素投与を行う。 |
高流量システム: | ベンチュリーマスクやベンチュリーネブライザーを使用し、一回換気量以上で酸素投与を行う。 |
リザーバシステム: | リザーババック付きマスクを使用し、呼気中に酸素をリザーバに溜め、溜まった酸素を吸気時に吸入する。 |
高流量酸素療法: | 加温加湿された高流量(最大60L/min程度)の酸素を、鼻カニューラを通じ、患者さんに投与する。 |
「MONNAL T60」では、FiO2(吸入酸素濃度)を「21~100%」、流量を「2~80L/min」まで設定でき、人工呼吸器でありながら、高流量酸素療法(ネーザルハイフロー)を実現できます。
酸素療法のシステムイメージ
高流量酸素療法(ネーザルハイフロー)について
選択の位置づけは以下のようになりますが、NPPVに比べ、鼻カニューラを使用するためQOLの改善、簡便性などに優れています。
以下の文献の中から、メリットについてご紹介します。
QOLの改善 | 死腔換気率の減少 | 鼻咽頭抵抗の減少 |
肺胞リクルートメント | 気道の粘液線毛機能の改善 | 呼気終末陽圧換気様効果 |
引用文献:「高流量鼻カニュラ酸素療法は呼吸管理の常識を変えた」
藤本圭作(信州大学医学部保健学科検査技術科学専攻生体情報検査学領域) 信州医誌63(2):109~111 2015
http://s-igaku.umin.jp/DATA/63_02/63_02_05.pdf
あるご施設の適応例をご紹介します。
各種酸素化障害 | COPD急性増悪 | 術後呼吸不全 |
上気道狭窄(閉塞) | 人工呼吸の離脱サポート | 自発呼吸補助 |
その他 |
この施設では、基本的に使用制限を設けず、酸素療法に迷ったら高流量酸素療法(ネーザルハイフロー)を選択されています。
理由としては以下を挙げておられます。
● 侵襲性が少ない● P/Fの精度が高い● 簡便性● 吸気仕事量の軽減が可能
● 鼻腔口腔内分泌物垂れ込みの防止効果(肺炎発症のリクス軽減)
高流量酸素療法における注意点
高流量で酸素を供給するので加湿には注意が必要です。また、加温加湿器の推奨流量レンジが「2~60L/min」となっている場合が多いのでご留意ください。
酸素療法機能を使ってみよう
「MONNAL T60」での酸素療法機能のセットアップをご説明します。以下の手順をご参照ください。
1. 左側面の高圧酸素インレットに、高圧酸素配管を接続します。
2. 高圧酸素を供給し、「オートテスト」を行います。
本体にダブル回路を取り付け、「オートテスト」を行い、機器の正常作動を確認します。
a) ダブル回路を取り付けます。 | b) ホーム画面から「オートテスト」を押します。 | |
c) 呼吸回路を塞いで、「確定」を押します。 | d) オートテストが実行されます。テスト完了まで約2分間です。テスト完了後、「終了」ボタンを押し、終了になります。 |
3. ダブル回路をシングル回路に変更し、患者さんにシングル回路に接続した鼻カニューラを取り付けます。
加温加湿器は、回路への水滴流入を防ぐために患者さんより低い位置に取り付けてください。
4. 酸素療法機能を作動させる前に加温加湿器が作動しているか確認してください。
5. スタートアップ画面で「酸素療法」モードを選択し、FiO2、フローを設定してください。
なお、アラーム設定はピーク圧上限の設定が可能です。ピーク圧上限のデフォルト設定値は「45cmH2O」となっています。
必要に応じて変更してください。各設定項目の設定範囲は、下記の通りです。
設定項目 | 設定範囲 | |
FiO2 | 21~100% | |
供給フロー | 成人 | 4~80L/min |
小児 | 4~60L/min | |
乳幼児 | 2~60L/min |
6. 「確定」を押すと、設定FiO2でのフローの供給が開始されます。セットアップは以上です。
「酸素療法」をご使用中は、患者さんから目を離さないようご注意ください。
今回はMONNAL T60の新機能「酸素療法機能」についてご紹介させていただきました。
気管挿管、NPPVに加え、高流量酸素療法も行える様になったことで、MONNAL T60の使用範囲が更に広がったことをご理解いただけたかと思います。
さらに詳しい情報につきましては、最寄りの事業所へ、またはホームページよりお問い合わせください。
高流量酸素療法(ネーザルハイフロー)関連文献
「酸素療法ガイドライン」
日本呼吸器学会・日本呼吸管理学会/編 メディカルレビュー社2006
「高流量鼻カニュラ酸素療法は呼吸管理の常識を変えた」
藤本圭作(信州大学医学部保健学科検査技術科学専攻生体情報検査学領域) 信州医学雑誌63(2):109 – 111 2015
「ネーザルハイフロー療法 : 新しい酸素療法」
永田一真, 富井啓介(神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科) 医学のあゆみ254(2):175-176 2015
「ネーザルハイフローの口腔加湿の有効性について」
新福留理惠*1, 篠崎正博*2 (*1岸和田徳洲会病院看護部, *2岸和田徳洲会病院救命救急センター)
ICUとCCU39(4):251-254 2015
「Theme 1 人工呼吸・酸素投与と何が違う? ハイフローセラピーの原理と効果」
三枝勉, 古田島太, 磨田裕(埼玉医科大学国際医療センター集中治療科) 呼吸器ケア13(1):16-20 2015
「Theme 2 適応患者はどこにいる? どんなときに使う?」
大野進(滋賀県立成人病センター, 滋賀県立小児保健医療センター臨床工学部) 呼吸器ケア13(1):21-26 2015
「ネーザルハイフロー (NHF(TM)) を供給するF&P850システムを使用した, Optiflow(TM)鼻カニューレ」
公文啓二 (近畿大学医学部奈良病院救命救急科) 循環制御36(1):46-52 2015
「Oxygen delivery through high-flow nasal cannulae increase end-expiratory lung volume and reduce
respiratory rate in post-cardiac surgical patients」
Corley A1, Caruana LR, Barnett AG, Tronstad O, Fraser JF.
(1Critical Care Research Group, The Prince Charles Hospital and University of Queensland)
Br J Anaesth. 2011 Dec;107(6):998-1004.